コロナ医療逼迫を予見した経済学者・宇沢弘文 ベーシックインカム批判と「社会的共通資本」論

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資本主義の問題点がさまざまに議論される今、宇沢弘文の「社会的共通資本」の考え方が脚光を浴びている(撮影:梅谷秀司)

新型コロナウイルスの感染拡大によって経済社会が大きなダメージを受ける中、独自の「社会的共通資本」論を唱え続けた経済学者、宇沢弘文(1928~2014)が脚光を浴びている。「社会的共通資本」は市場経済原理に任せないで社会的に管理される財・サービスの総称だが、宇沢は、医療サービスをこの「社会的共通資本」の重要な要素と してたびたび強調してきた。

このため東京財団政策研究所上席研究員で元日本銀行理事の早川英男氏は、ポストコロナの医療体制を考える中で、「社会的共通資本」に言及している。宇沢の経済学への姿勢について、膨大なインタビューと調査をもとに大著『資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界』をまとめあげた佐々木実氏は、宇沢が今日のコロナショックのような社会経済体制の危機を念頭に独自の経済学を構築してきたとする。

特に興味深かったのは、宇沢の長女である占部まり氏が、東洋経済オンラインに寄稿した『宇沢弘文の「社会的共通資本」が今、響く理由』において、宇沢がベーシックインカムの議論を必ずしもポジティブに評価していなかった点に言及していたことだ。

なぜ、宇沢は所得再分配政策の1つであるベーシックインカムを評価していなかったのか――。筆者はあらためて彼の著作『自動車の社会的費用』を読み直してみたが、ここでは新古典派理論の限界と社会的共通資本、所得再分配政策が併せて語られている。そこで、よりフォーマルに書かれた『経済解析(展開篇)』(岩波書店、2003年)の第17章「社会的不安定性と社会的共通資本」に依拠しながら、宇沢がなぜベーシックインカムを批判し、「社会的共通資本」の理論を展開するに至ったのかを、今回のコロナ禍での医療問題と関連付けて考えてみたい。

医療などの「必需財」の価格は上昇しやすい

『経済解析』の議論は数学的な抽象経済モデルを使って展開されている。まず世の中の財やサービスを「必需的な財・サービス」と「選択的な財・サービス」の2つに大別する。

「必需財」は、現在の医療サービスのように他の財・サービスでは代替のきかないもので、経済学的には需要の価格弾力性(価格に応じた需要の変化)が小さいと考えられる。病気になった場合は、いかにその財・サービスの価格が高額であっても必要である。同様のことは供給側についてもあてはまる。必需財供給の価格弾力性は小さい可能性が大きく、価格が高くなってもすぐには供給が増えないであろう。

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