宇沢弘文の「社会的共通資本」が今、響く理由 コロナ禍で社会に本当に必要なものがわかった
新型コロナウイルス感染症が蔓延したことで、世界観が大きく変わった方も多いと思います。とはいうものの、緊急事態宣言が出ていたあの頃は遠い昔のことのように感じられます。少しずつ新しい日常生活が戻ってきてはいますが、このウイルスが浮き彫りにした社会問題に向き合い続ける必要性を強く感じています。
豊かな生活に欠かせないものを政府が支える
私の父は宇沢弘文という経済学者で、ノーベル経済学賞にいちばん近い日本人とも言われていました。大事なものは金銭に換算することはできない。そんな当たり前の視点から「社会的共通資本」という理論を構築しました。
豊かな社会に欠かせないものがあります。例えば、大気、森林、河川、水、土壌などの自然環境、道路、交通機関、上下水道、電力・ガスなどの社会的インフラストラクチャー、教育、医療、司法、金融制度などの制度資本です。宇沢はこれらを社会的共通資本と考え、国や地域で守っていくこと、市場原理主義に乗せて利益をむさぼる対象にしないことで、人々がより生き生きと暮らせると考えていました。
J.S.ミルの提言した“定常状態”、経済成長をしていなくても、その人々の生活に入り込むと豊かな生活が営まれている、そんな社会を支えるのが社会的共通資本であるとしていました。経済成長と人間の幸せが相関しない時代に入った今の日本や世界の多くの地域で、この理論が共感を呼ぶようになってきています。
日本の4~6月の緊急事態宣言の中でも、電気、水道といった社会的インフラストラクチャーが機能していました。私は横浜市でかかりつけ医をしていますが、通勤で電車がいつもどおり動いていたことで、本当に助かりました。経済原理に従えば、これだけ需要が減った場合、減便などで対応することが議論されてもおかしくない状況でした。
医療や教育など社会が機能するうえで本当に必要なものが明らかになり、そうしたものは市場というシステムからはなかなか見えづらく、利益至上主義で考えないということの重要性が多くの方に認識されたのではないでしょうか。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら