宇沢弘文の「社会的共通資本」が今、響く理由 コロナ禍で社会に本当に必要なものがわかった
同時に社会保障制度のあり方も見直しの必要があるとのことで、ユニバーサルベーシックインカム(UBI)が話題になっています。しかし、これは深く考えたいところです。
「国民全員にお金を配るという考えはどうなのか」を父に聞いてみたことがあります。答えは「うまくいかない」でした。「なぜ?」という私に返ってきた答えは「今月100円で買えた大根が来月は120円になる」でした。
みんなが必要としているもの、つまり需要が多いものは市場原理に任せると、価格が上がっていくのです。弱者がどんどん必要なものに手が届かなくなっていってしまうというのが父の解説でした。UBIを導入すると、教育や医療といったものの価格が大きく上昇していくというわけです。
宇沢と1964年から親しくしていたジョセフ・E・スティグリッツ・コロンビア大学教授は「政府の役割はお金を配ることではなく、働きたい人に仕事を与えることだ」といっています。お金が配られて、自由に好きなものが買えるという状況以上に、働きたい人がやりがいを持って働ける場があるということは価値があります。
同じような金額を得るにしても、仕事があることで、その人が社会参画している、社会から必要とされているという実感が得られ、社会、つまり人とのつながりも同時に構築されていくのです。人と人とのつながり、つまり「社会関係資本」が健康に及ぼす影響の大きさに関する分析も最近は多くなされるようになりました。
医療は雇用を生み出し社会を安定させる
宇沢はまた、社会的共通資本を担う専門家集団を国ないし地域がサポートするべきと言っていました。税金から賄われることが多い性質のものです。しばしば医療費は税金の無駄づかいという論調が展開されることもあります。しかし、医療費は医療に従事している人の給料となり、社会に還元されていきます。
医療を産業と呼ぶのには抵抗がありますが、医療分野には医師や看護師、薬剤師といった国家資格を有している人から、清掃や調理など資格がなくても働ける仕事もあり、このような幅の広い雇用を生み出すものは他に例を見ません。さらに病院はボランティアという金銭的なものを伴わない人とのつながりを生み出す社会装置でもあります。繰り返しになりますが、健康に対して一番大きな影響を与えるのは人とのつながり、社会関係資本なのです。
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