「証券化商品の価格決定に格付けを使うのは筋違い」 クラークソン・ムーディーズ社長

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「証券化商品の価格決定に格付けを使うのは筋違い」 クラークソン・ムーディーズ社長

金融界の混乱が収まらない。サブプライム問題を発端に、機能不全に陥ったクレジット(信用)市場を氷解させるには、格付け会社の信認回復が不可欠だ。業界最大手のムーディーズインベスターズサービスのブライアン・クラークソン社長兼COOに、市場の混乱を招いた要因と、市場回復に向けた格付け会社の役割と機能について聞いた。

--世界経済を揺るがしているサブプライム問題が、ここまで拡大した要因をどうとらえていますか。

サブプライム問題は予想以上の損失が出たことに端を発している。サブプライムローンを裏付けとする証券化商品(以下、サブプライム関連商品)から始まり、損失の波はCDO(債務担保証券)、SIV(ストラクチャード・インベストメント・ビークル)、銀行、モノライン(金融保証会社)など金融全般に伝播した。確かに、われわれ格付け会社が問題の端緒となったと認識している。

2006年に発行されたサブプライム関連商品は4600億ドルあり、時価評価をした場合の償却あるいは減損による損失額は、1000億ドルに上るとわれわれは予想している。エコノミストによっては5000億ドルや1兆ドルにまで損失が膨らむとの意見もあるが、これはサブプライム関連商品だけではなく、損失額をクレジットデフォルトにかかわる広範なものと見積もっているためだ。

いずれにせよ、サブプライム問題は市場の信頼そのものを揺るがす事態になっている。特に、サブプライム関連商品やCDOなどのサブプライム派生商品を、誰が保有しているかが開示されていないことによる市場の動揺は大きい。

2006年から市場が変わってしまった

こういった身動きのとれない国際金融市場の状態から、今後いかに信認を取り戻せるかが重要だ。サブプライム関連・派生商品の価格に限って言えば、何らかの住宅市場の価格の安定化が望まれる。今後見込まれる延滞の発生や価格下落が想定できるようになることが必要で、そうなれば商品価格の値付けが可能になる。情報開示の透明性も不可欠だ。予想損失にかかわる情報が市場に広く共有されることになれば、トレーディング取引も活発化するだろう。
 
 市場の好転を阻害しているのは、バランスシート上で売却を待っている数千億ドル単位の金融証券化商品である。適正な価格付けができるようなメカニズムが備わらないかぎり、売り手も買い手も現れない。価格メカニズムが適正に働くことになれば、市場が好転するきっかけになる。
 
 --大量格下げの理由は。

それは、われわれが予想した以上にはるかに住宅価格が下がり、延滞率が上がったことによる。格付け会社としてトリプルAの格付けを付与する場合、サブプライム向けなら、住宅ローンとしてプールしている金額の30~35%の信用補完(損失を吸収するバッファー)が必要。プライム向けの住宅ローンの場合は4~5%で済むので、サブプライム物はプライム物より7~8倍の信用補完が必要となる。

歴史が浅く変動率が高い場合は、格付けを相対的に低めなければならない。または、あえて格付けを付与しないという選択肢もある。今から考えれば、サブプライム関連・派生商品は住宅価格の下落や延滞率の上昇を見越して、さらに信用補完をすべきであったかもしれない。

ただ、信用格付けとは、本来、デフォルトが起こった際に、どれだけ甚大な被害を伴うかを基に算出した予想損失率といえる。価格に代わるものでもなければ、価格のリスクを測るものでもないのだが、市場が価格に代わるものとして格付けを用いていたことは、課題として大きい。

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