森元首相、「蔑視発言」に菅政権が及び腰のわけ 「失言王」の発言を軽視、後任候補に元五輪相も

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森氏の辞任が避けられなくなる状況を想定して、自民党内の一部では丸川珠代元五輪担当相(参院議員)を後任会長とする案も取りざたされている。「森氏と親しく、五輪開催の実務も経験しており、即戦力」(自民幹部)との計算だ。

「女性が後任なら、森氏の差別発言を帳消しにできるメリットもある」(同)との読みもある。その場合、森氏は名誉会長などに退くことになるとみられるが、「実質的には森氏がトップの状況は変わらない」(組織委関係者)だけに、批判払拭につながる保証はない。

菅政権と森組織委は「瓜二つ」

決断を迫られる菅首相と森氏は、「リーダーとしては同じ体質」(自民長老)との指摘もある。組織委の運営は「すべて森氏の意向を踏まえて進められてきた」(有力幹部)とされる。「まさに『森一存体制』で、『菅一存』が際立つ現内閣と二重写し」(自民長老)というわけだ。

森氏の根回しを駆使する手法は「二階俊博自民党幹事長と同じ政界絶滅危惧種」(細田派幹部)とも揶揄される。さらに、菅政権の柱とされる麻生太郎副総理兼財務相も、森氏と同様に失言王と呼ばれて久しい。

それだけに政界では、「側近を集めてトップに忖度を強いる組織運営でも、菅政権と森組織委は瓜二つ」(自民長老)とみる向きが少なくない。だからこそ与党内からも「菅首相ら政権幹部は、同じ穴のムジナの森氏には引導を渡せない」(自民若手)との声が出る。

森氏は年末年始のインタビューなどで「菅さんという人は本当に木訥な人ですね。人の良い村役場か町役場の助役さんという感じで、みんなが親しみを持てる人だと思う」などと持ち上げた。菅首相も「大先輩の森氏をあえて批判しない」(側近)とされる。

ただ、菅首相が今回の森問題への対応を誤ると、「五輪中止論も加速し、政権危機にもつながりかねない」(閣僚経験者)。今後も「森氏の首に鈴をつける度胸があるかどうか」(同)が問われそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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