日本郵政の労働組合が抱く強烈な危機感の裏側 JP労組が会社に異例申し入れ、幹部2名を直撃
――2015年の賃金改定では、渉外社員の固定給部分が2割減り、出来高制の営業手当の割合が増えるという改定がありました。われわれの取材では、複数の渉外社員が、この改定が不正を拡大させた最大の要因だと言っています。当時の組合はなぜ、このような改定に合意したのでしょうか。
栗田:当時の役員ではないので詳しくは把握していないが、JP労組の中でも「(会社の言うように)頑張った者が報われる」ようにすべきという考えはあった。全部を一律固定給にして、やってもやらなくても同じというのは、これから民間企業として一定の営業をしていかなければいけないという流れの中でどうなのかと。頑張った人にはそれなりに評価をするような仕組みにするべきだ、という意見があった。
会社は出来高による収入差をもっとつけたかったのかもしれない。社員の安定した生活も大切だが、成果連動部分により差をつけるという形になったようだ。
当時は引き抜きがすごかった
坂根:2015年の賃金改定には背景がある。当時、相当数の渉外社員が民間生保からの引き抜きにあっていた。ほかの民間保険会社では出来高部分の営業手当額はかなり高い。そのため数字を上げられる渉外社員に対して、勧誘電話がガンガンかかってきていた。郵便局員はお客様を多く抱えているし、持っている顧客データも多いので、向こう(=民間生保)からしても欲しい(人材だった)のだろう。
渉外社員からすれば、民間他社に移れば、もらえる営業手当が増える。だから引き抜きによって、それまでいろいろと勉強して、話法を研究してきた成績優秀な渉外社員が奪われてしまう。当時はそれで辞める人がかなり多かった。そこに一定の歯止めをかけないといけない、それには営業手当の見直しをしないといけなかった。
ただ、あまり数字を取れない人もいるし、そもそもローカル地域など人口が少なくて(新規契約を)取りにくいところもある。あまりにも成果部分の割合を高めてしまうのも問題なので、いちばん皆が合意できるようにという判断の中でああいう割合の改定になった。
――会社は2020年の賃金改定で2015年以前の形に戻しました。2015年の改定がまずかったというのを今では認めているからではないですか。JP労組としても当時、合意してしまったことが不正拡大につながってしまったという責任感や罪の意識はありますか。
栗田:まずこれからも、お客様本位の営業は当然としても、企業の持続性を考えれば一定の(かんぽの新規契約の)数字、成果を上げていかなければいけない。やってもやらなくても一緒というよりは、頑張った人が報われるというようにする制度は、この先も検討するべきだと思っている。差をつけるということについて、完全に反対ということはない。
問題なのは新規契約を取ればいいという目標を先に設定して、それだけを追いかけさせていたことだ。その結果、新規に(カウント)させるためにいったん解約させるようなことが起きた。そういう、数字だけを追いかけさせる営業の管理体制こそ見直すべきだと思っている。