電気自動車普及のカギを握る電池技術の現在地 全固体電池への過度な期待は禁物

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そもそも、ガソリン車と同じ使い方をEVで想定すべきではない。日本のほとんどのドライバーの1日の走行距離は30キロメートル以下とされる。この程度なら、家庭での普通充電で夜間に充電、いわばスマホの充電感覚で問題なく使いこなせるし、ガソリンスタンドに行かずとも毎朝常に満充電に保てる。週末の往復300キロメートル程度(東京から軽井沢までの往復)のドライブなら、リン酸鉄系電池のEVでも十分にカバーできる。

電池も重要だが、むしろ日本でのEV普及にとって本当に必要なのは、集合住宅における普通充電器の設置促進施策と急速充電網の整備だ。アメリカでは、集合住宅のオーナーが充電器設置を求められたら断れないとする法律もある。自宅充電と経路充電(移動途中での充電)の双方に対する心理的不安を払拭することがまずは重要だ。

今後、自動運転技術が進化して無人ロボットタクシーが実用化されると言われている。個々の車両は一度に何十キロメートルも走ることはなく、むしろ、充電を繰り返しながら短距離を連続して走り続けるという使われ方が想定される。そこで電池に対しては、1回の航続距離よりも繰り返し耐久性や長寿命が要求されると考えられる。

真っ先に接触してくるのは中国企業

――そうすると、すでに実用化されているリン酸鉄でかなり解決できてしまいます。先生のような研究者の役割は何でしょう。

まずは、今まさにこのインタビューで行っているような、中立公平な立場からの科学的知見を提供することだ。次に、常識を破壊するような非連続な価値転換可能性も提供したい。高電圧水系電池や消火性有機電解液はその代表例となる。あとは、中長期を見据えた課題への取り組みだ。例えば、文部科学省の元素戦略プロジェクトでは希少金属を一切使わない電池を開発している。

最後にもう1つ、大学の研究者の重要な使命は人材育成だ。質の高い研究題材を通じて、俯瞰的な視点から最適な技術開発戦略を立てられるリーダーを育成したい。

――研究者から見た日本企業の実力は。

裾野のひろい基幹材料や製造技術のしっかりとしたベースがあるし、品質においてはトップを走り続けていると思う。がんばってほしいし応援しているが、アメリカや中国系の企業と比べると意思決定のスピードに差があるように感じられる。

たとえば、大学の研究シーズに真っ先に本気でコンタクトしてくるのは中国企業だったりする。文化の違いや善し悪しはあると思うが、日本企業は、慎重に段階を踏んで物事を始めることが多い。その一方で、素性の悪い技術開発が成り行きで継続され、やめるにやめられないというケースも散見される点を心配している。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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