電気自動車普及のカギを握る電池技術の現在地 全固体電池への過度な期待は禁物

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――消火性の電解液もすぐに実用化というのは難しい。そうすると、EVが社会で広く普及できるような電池の実現には、まだ時間がかかるということでしょうか。

最近になって、正極材にオリビン型リン酸鉄を使うリチウムイオン電池の採用が急速に広がっている。私がソニー在職時代から研究してきたものだが、テスラや中国のBYDなどがEVに次々と採用している。日本ではソニーから事業を引き継いだ村田製作所やエリーパワーなどが手掛けている。最新のテスラ「モデル3」のスタンダードグレードには、このリン酸鉄系電池が搭載されている。

――中国の上海GM五菱汽車が開発した激安EVもリン酸鉄系ですね。

中国では材料特許が有効でないこともあり、2000年代から多くの技術やノウハウを蓄積している。

約46万円の低価格で農村地域で大ヒットしている「宏光MINI EV」(写真・上海GM五菱汽車HP)

――リン酸鉄系はEVの主流になりうるのでしょうか。

今後の市場拡大の中心ゾーン、いわゆる大衆車グレードから主流になっていくかもしれない。私は20年以上前から大型電池としての優位性を指摘してきた。エネルギー密度はそれほど高くはないが、それでも現在のリン酸鉄系電池搭載のテスラモデル3はWLTP航続距離約450キロメートルを達成している。

現状の多くの課題を突破できる

希少金属ではない鉄ベースなのでコストが安く、資源不足の心配もない。充電限界電圧に対して大きな余裕があるので充電速度が速く、満充電近くまで充電速度を維持できるうえに、満充電状態で放置しても劣化しない。このことから、通常EVは80%程度以下の充電での使用が推奨されるのに対し、モデル3ではむしろ100%充電での使用が推奨されている。何よりも耐久性がずば抜けて高く寿命も長い。加えて、燃焼の原因となる酸素を放出しないので、現在の汎用電解液を使っても安全性をかなり担保できる。

このように、リン酸鉄系のリチウムイオン電池によって、実は現状の多くの課題を突破できる。

――リン酸鉄系の弱点はありますか。450キロメートルでは従来のガソリン車に届きません。

弱点としては、第1に単セル当たりのエネルギー密度がやや低くなることだ。ただし、テスラを中心に単セルのサイズを18650(径:18ミリ、高さ:65ミリ)→2170(同21ミリ、70ミリ)→4680(46ミリ、80ミリ)と大きくすることと並行して、現状のセル→モジュール→パック→シャーシという4階層を一気に撤廃してセル→シャーシとするなど、電池システムとしての大幅なパッケージ効率化が計画されており、現状の450キロメートルからの航続距離改善の余地は大きい。

第2の弱点は、極寒地で想定される低温での入出力特性がやや低下すること。しかし、現在のEVではコンパクトな常時電池温度管理システム搭載が常識になっており、回避は可能だろう。しかも、リン酸鉄系電池は摂氏60度程度の高温でも安定して作動するので、一時的な昇温による超高速充電も達成しやすい。

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