電気自動車普及のカギを握る電池技術の現在地 全固体電池への過度な期待は禁物

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――全固体電池はEV普及のための「ゲームチェンジャー」だと思っていました。

リチウムイオン電池の改良と低コスト化が急速に進展し、全固体電池に懐疑的な人も増えてきている中で、これらを杞憂と笑い飛ばすくらいの画期的な総合数値スペックを実現した現物の提示がそろそろ必要ではないか。全固体電池が「ゲームチェンジャー」なのか、「オールドオプション」なのかは、事実とデータが自ずと教えてくれると思う。

やまだ・あつお/東京大学工学系研究科教授 1990~2000年、ソニー中央研究所研究員。1996~1997年、テキサス大学客員研究員。2000年~2002年、ソニーフロンティアサイエンス研究所研究室長。2002~2009年、東京工業大学准教授、2009年から現職。京都大学拠点教授や京都大学元素戦略研究拠点副拠点長を兼任。省庁横断蓄電池ガバニングボードメンバー

――次世代電池では、たとえば硫黄電池なども難しいのでしょうか。

コスト面では大いに魅力的だが、硫黄は電気を通さないので大量の特殊炭素などを混ぜなければならず、言われているほどエネルギー密度は上がらない。また、硫黄は水と触れると猛毒の硫化水素ガスが大量に発生する。大型の全固体電池用に検討されている電解質にも、硫黄が大量に含まれている。大気中の即死濃度が0.1%という猛毒物であり極めて危険だ。

――先生は電池材料でいくつかのブレークスルーの発見をされています。たとえば2016年の「常温溶融水和物」は、電解質に使われる有機溶媒の代わりに水を使うことで、安全性を高め、性能も上がり、コストも下がる期待があります。

水を使っても高電圧を実現できる点で原理的な突破をしたことは確かだが、現時点では値段の高い物質を大量に溶かす必要があるため、コスト面ではむしろ不利になる。電池のサイクル特性や寿命も、改善は進んでいるがまだまだ十分なレベルではない。

研究室と量産を隔てる深い谷

――2018年と2020年に発表した「発火しない」電解液についてはいかがでしょう。

エネルギー密度と安全性の二律背反を打開できる有機電解液を目指して開発した。電解液そのものが消火剤として機能するほか、耐久性も大幅に高めることができる。

ただし、電解液が燃えないからといって、電池が絶対安全ということにはならない。不測の際に、電池の中ではさまざまな物質の間でいろいろな発熱反応が起こる可能性がある。大学では商用サイズの電池をつくることはできないので、しかるべき機関で安全性のレベルを慎重に確かめなければならない。

――消火性の電解液の実用化の見通しは。

現状の生産ラインを生かせるという点では、それほど障壁は高くはない。一方、現在の汎用電解液は量産化によってすでに限界近くまでコストが下がっている。現状は「研究室で数グラムできました」「これを使うと理想的です」という段階で、量産ベースでの品質保証やコスト競争力、サプライチェーン構築まで考えると、簡単ではないし時間がかかる。

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