診断後、勉強方法を徹底的に変えた。漠然と「時間があるときに勉強する」ではなく、出勤前に2時間、帰宅後に3時間、平日は計5時間は必ず勉強の時間を捻出すると決めた。集中力が落ちてきたと感じたら、近所のファストフード店などに場所を変えるようにした。自分が計画どおりに物事を進められなかったり、集中力が保てなかったりするのは、障害が原因だという前提で、それまでのやり方を改めたのだ。
ミツルさんは社会保険労務士を目指した理由を次のように説明する。
「人々の生活に密接に関わる仕事だからです。例えば、父のそば店では私を含めて従業員全員が社会保障に未加入でしたが、そうした問題のある会社を少しでも減らしたい。それから、障害者雇用助成金の正しい使い方を知ってもらうことで、障害者の働く機会も増やしたい。制度について知識がないばかりに将来困る人を少しでも減らせる、社会に貢献できる仕事だと思ったんです」
診断をゴールではなく「きっかけ」に
ミツルさんは終始、落ち着いた話しぶりだった。ただ、昨年11月6日の合格発表の日は、時間ぴったりに厚生労働省のホームページにアクセス。自分の番号を見つけたときは、「よっしゃ!」と声を上げ、ガッツポーズをしたという。
ミツルさんは今年秋の開業を目指している。幸か不幸か、現在勤めている知人の会社はつい最近解雇された。取材中、ミツルさんは自分に言い聞かせるように「大変なのはこれからだと思っています」と繰り返した。
たしかに会社員であれば解雇や雇い止めには労働関連法が一定のハードルを設けている。しかし、個人事業主である社会保険労務士は通告ひとつで契約解除される。
一方でこれは持論だが、発達障害と判明した人が診断をただの「ゴール」とするのか、それともミツルさんにように今後のための「きっかけ」とするのかで、人生のあり方は大きく違ってくる。それに本来制度を利用できる人が利用できていない行政の不作為ともいえる隙間は確かに存在する。そこには発達障害当事者、非正規雇用経験者でもあるミツルさんのような専門家の需要もまたあるのではないか。
50歳の新人社会保険労務士へのエールとしたい。
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