欧州連合(EU)は2020年7月の首脳会議で、国際炭素税の導入や、EU域内排出量取引制度で財源を賄う復興基金を設置することで合意した。アメリカも、地球環境問題を重視する民主党のバイデン氏が大統領に就任し、この流れを決定的なものにした。
経済界の意向を反映してカーボンプライシングに消極的とされていた経済産業省も、2020年12月の成長戦略会議で取りまとめられた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で一歩踏み込んだ。経産省は「2050年カーボンニュートラル」への挑戦を、経済と環境の好循環につなげるための産業政策と位置づけた。
成長戦略に資するカーボンプライシング
グリーン成長戦略には、「市場メカニズムを用いる経済的手法(カーボンプライシング等)は、産業の競争力強化やイノベーション、投資促進につながるよう、成長戦略に資するものについて、既存制度の強化や対象の拡充、更には新たな制度を含め、躊躇なく取り組む」「国際的な動向や我が国の事情、産業の国際競争力への影響等を踏まえた専門的・技術的な議論が必要である」などと明記された。
梶山経産相や小泉環境相の表明はこの線に沿ったものである。つまり、今回のカーボンプライシングの検討は「成長戦略に資するもの」という条件が付されているのだ。
急進的な地球環境保護派ならば、カーボンプライシングはCO2の排出に対して懲罰的に炭素税を課したり、排出量取引で温室効果ガス排出量の上限を厳しく設定したりすることに重きを置くべきと主張するだろう。
しかし、欧米の出方が未確定な段階で、日本が先んじてカーボンプライシングに踏み込もうという機運はない。ただでさえ、輸出競争力が低迷している日本企業に対して、あえて不利になるようなカーボンプライシングを課せば、欧米は日本の足元をみて自国企業に有利になるようにしながら、温暖化防止に積極的だと印象付ける政策を講じてくるだろう。
これまで日本は、気候変動問題に消極的だと世界的に批判されてきた。日本企業に過重な負担増を課さないように配慮をし、カーボンプライシングを軽微にしたとしても、逆に地球環境問題に対して不熱心だとレッテルを貼られて負担増以上の不利益を日本企業が被るということにもなりかねない。
この期に及んで、わが国でカーボンプライシングの議論を封印することはできなくなった。いま反対している企業に対しては、成長戦略に資するカーボンプライシングを示すことで、納得してもらうことが得策である。
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