図1はオーストラリアが急速に中国市場への依存を高めたことを示している。そのきっかけは2008年のリーマンショックであった。中国が実施した4兆元(当時のレートで約60兆円)の景気刺激費の多くは国内のインフラ整備に使われ、その結果、資源需要が大幅に高まり、2010年度鉱物資源のオーストラリアの輸出額は約1700億豪ドル(約14兆円)と前年比約30%の増加、この時点でオーストラリアの全輸出の25%が中国向けとなっていた。
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これ以降、オーストラリアの中国市場への依存が強まる中、中国はオーストラリアを自らの経済外交を支えるパートナーへと変貌させる。オーストラリアは2015年3月に中国が進めるアジアインフラ投資銀行(AIIB)への加盟を決定、習主席が参加した同年11月のブリスベンG20では中豪関係は「包括的戦略パートナーシップ(Comprehensive Strategic Partnership)」に引き上げられ、そして2国間FTAを同年12月に発効している。
FTAには完全オーストラリア資本による中国医療サービス市場への投資自由化など、中国としては異例の対応をオーストラリアのために行っている。日米はAIIBに不参加を決定し、中国FTAの交渉もせず、市場経済国としての認定もしていないなど、オーストラリアの中国傾斜が浮き彫りになる。
中国の政治的意図
さらにこれらの動きはすべて、対中関係をとくに重視してきた労働党政権時(2007〜13年)ではなく、安倍政権と防衛・安保分野で関係を深めたアボット保守政権時になされたことは、中国の意図を考えるうえで重要である。中国からすれば、アメリカの同盟国としてハブアンドスポーク体制の一角を占めている点にこそ、オーストラリアに対して相互依存を利用して影響力を行使する価値があり、具体的には、南シナ海問題でオーストラリアの関与を抑えることに、オーストラリアとのパートナーシップを進めた政治的意図があったと言えよう。
しかしオーストラリアは共通の価値観、とくに法の支配の放棄をしてまで中国の立場を支持することはしなかった。2016年7月、国際仲裁裁判所が南シナ海で中国の主張する領海線を無効とした判決に対して日米と歩調を合わせ、中国に同判決を尊重するよう求めた。
ここから、それまで順調に推移してきた中豪関係が不安定化し始める。共産党中央委員会の実質的な機関紙である『環球時報』の「自由貿易協定を結ぶ中国は最大の貿易国なのに、南シナ海をかき乱すような行動は驚きだ……オーストラリア軍など取るに足りない。張り子のトラならぬ張り子のネコだ」といった威圧的な社説に中国のいら立ちが読み取れよう。
2018年8月、アメリカの決断を受ける形で次世代通信規格「5G」通信網からの中国企業排除をターンブル(Turnbull)政権が決断したことで、さらに関係が冷え込む。この決断に主導的役割を果たしたのが、同政権で内務大臣を務めていたモリソン現首相であった。先述のコロナ独立調査の発言をしたモリソン首相だが、この時からすでに中国では要注意人物としてマークされていた可能性が高い。
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