日本も無関係じゃない「中豪関係悪化」の波紋 「相互依存の罠」から抜け出すために必要な知恵

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ただ、中国も資源輸入ではオーストラリアに大きく依存しており、相互依存の罠はオーストラリアのような資源大国には諸刃の剣でもある。例えば中国は鉄鉱石需要の8割超を輸入しているが、オーストラリア産が全体の65%を占める。オーストラリア内には、中国への対抗措置として鉄鉱石に輸出関税をかけるなどの対抗措置を訴える声もあり、『環球時報』がこの可能性を指摘するなど、中国が気に気を揉んでいることは、これまでの強硬路線に変化を起こさせることにつながるのかが注目される。

しかし、この報復措置はたとえWTOが認定したとしても、対中関係をさらに悪化させ、中国市場を長期的に失うことにつながりかねないことから避けねばならない。豪州は2020年12月、豪産大麦へ中国が一方的に80%の関税を課したのは不当として、WTOへの提訴に踏みきり、2国間協議を要求した。ところが事態は進展しておらず、むしろこれにより紛争の長期化を懸念する声も多い。中国依存度を低減するのであれば、短期的には20年発効のインドネシアとのFTAや昨年6月のモディ・モリソン会談より交渉に向けて動き始めたインドとのFTA、そしてCPTPP加盟国の拡大など、貿易転換効果が大きい巨大市場とのFTAを使った貿易の多角化が有効である。

中期的には、自由で開かれたインド太平洋ビジョン(FOIP)の通商分野での具現化であり、とくに自由化度が高く経済ルール設定機能を保持するCPTPPのさらなる拡大・充実である。2020年11月20日のAPEC首脳会議にて習主席が「TPP加入を積極検討」を表明、世界がその真意と可能性を論じ始めたが、オーストラリアにとっては罠から抜け出す突破口につながるかもしれない。

自らの要求を中国に突きつける機会にも

TPPへの参加希望国はまず既存加盟国と2国間の事前交渉を持つことになるが、今回不当にかけられた関税の取り下げなど、オーストラリアにとっては自らの要求を直接中国に突きつける機会でもある。もしそれらが拒否されれば、中国の参加に対して反対を合法的に表明すればよい。

その際、日本はWTOの法の順守という共有する価値観の立場から、オーストラリアの要求や決定を支持するのが望ましい。CPTPPにはソースコード開示禁止や国有企業の透明性確保など「自由」や「開放」を求める条項が多数含まれており、FOIP実現に向けた基幹制度となりうる。中国主導と言われるRCEPにはこのような条項は含まれていない。

中国が支持しないFOIPの実現を外交目標として掲げるのであれば、中国が仕掛ける相互依存の罠を突き破る剣の役割を果たしうるCPTPPの拡大とルールのさらなる充実化は、オーストラリアはもちろん、2010年にレアアースで同様の扱いを受け、今も約6割を中国産に依存する日本にとっても有効な外交ツールとなりうる。そして、対中影響力の効果を最大限に引き上げるため、バイデン・アメリカ政権のCPTPP復帰は不可欠である。最初に欧州統合の仏独と比類しうると書いた日豪「経済同盟」の真価はまさにアメリカをTPPに戻せるかどうかにおいて問われている。

(寺田 貴/同志社大学 法学部教授)

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