イスラエルが超エリートをやたら輩出できる訳 多様な人材に最大限の力を発揮させる仕組み

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だが、なぜそんなことが可能なのだろうか? 新井氏によれば、現在のイスラエルの強さを作り上げたのは、「タルピオット・プログラム」というエリート教育なのだそうだ。

技術エリートを育てるタルピオット・プログラム

1948年の建国当時もイスラエルの人口は60万人程度しかなく、中東地域にありながら国土に石油や天然ガスなどの鉱物資源はまったくなかった。しかも南半分は砂漠地帯で、地政学的にも、対立する(イスラエルという国の存在を認めない)国々が周囲を囲む。

そんな状況で、初代の首相、ダヴィッド・ベン=グリオン(David Ben=Gurion)は、国を維持・発展させるために、
“We need our best young people, those of high virtue and moral, and of the highest intellectual abilities, to dedicate their time, skills, and lives for the prosperity of our country.(私たちは、私たちの国の繁栄のために自らの時間と力と人生を捧げてくれる、高い倫理観と知力を持った優れた若者たちを必要とする)”
と言ったという。唯一の資産が「人」であり、できる限り人に投資することが必要だ、という思想のもと、1979年に技術エリートを育成するための「タルピオット・プログラム」が開発された。
(108〜109ページより)

このプログラムを開発したのは、ヘブライ大学のフェリックス・ドータン(Felix Dothan)教授とシャウル・ヤツィブ(Shaul Yatziv)教授。きっかけになったのは、1973年の第4次中東戦争(ヨム・キプール戦争)の初戦でイスラエルが大敗したことだった。

手痛い大敗の経験から、「狭い国土と少ない人口」という“量”の劣勢を補うためには、優れたテクノロジーという“質”の優位性を持つ必要があると考えたのである。

最初のクラスは、1979年に実施されることとなった。プログラムはIDF(イスラエル国防軍)、ヘブライ大学、選抜された産業界メンバーという3者の協力によって運営されている。IDFが関わっているだけに軍事技術の研究開発をするプログラムかと誤解されることも多いそうだが、あくまでプログラムのゴールは「最高の技術者」を育てる「人材育成」である。

18歳から始まる3年間のプログラム卒業後は、6年間の兵役が義務となる。兵役と言ってもコンバットチームではなく、技術エリートであるタルピオット卒業生の能力を活かすために、IDFが求める技術開発に従事することになる。しかし、その後は大学の教授となったり、起業したり、と様々な道に進んだそうだ。2018年現在、卒業生は累計で1074名いるが、そのうち約200名はアカデミズムに進んでいるという。(112ページより)
次ページ産業界に羽ばたいて活躍するタルピオットの卒業生
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