2018年現在、卒業生は累計で1074名いるが、そのうち約200名はアカデミーに進んでいるという。例えば、ヘブライ大学の数学の教授であるイーロン・リンデンシュトラウス氏も卒業生であり、2010年に数学のノーベル賞といわれるフィールズ賞を受賞している。ワイツマン科学研究所のシステム生物学教授のウリ・アーロン(Uri Alon)氏も卒業生で、2004年に国際計算生物学会からオーバートン賞を受賞している。また、ビジネス界でもタルピオット出身者が創業した企業は幾つも挙げることができる。(142ページより)
卒業生が活躍している分野は極めて広く、コンピューター・サイエンスがその基盤になっていることも特徴。IDFのための技術開発経験が、音楽にも、創薬にも応用できるわけで、そこが彼らの強さだということだ。それは、教育の本来あるべき姿なのではないだろうか?
日本がイスラエルから学べること
先に触れたように、プログラムの当初の目的は第4次中東戦争で経験した劣勢を踏まえ、IDFのために優れた軍事技術を開発できる人材の育成だった。もちろん、その目的は十分に達成できているのだろう。しかし、それ以上に彼らは、イスラエルの社会・経済に大きく貢献しているのである。
ナスダックに上場しているイスラエル企業は、タルピオット卒業生が創業したか、あるいはその企業の中で重要な役割を担っていることが多いと言われる。ともかく、タルピオット卒業生である、と言えば仕事に困ることはない。優秀な人材として産業界でも獲得競争対象であり、また、卒業生の同窓会組織が強固なネットワークをもとに個々人に最適と思われる仕事をオファーする役割もあるようだ。リーマンショックのときに、世界の多くの国がマイナス成長であったにもかかわらず、イスラエル経済はプラスを維持したのも、このようなエリート人材を育てたおかげであると言ってよい。(145ページより)
その可能性の源泉は、複数の異なる要素を組み合わせて新たな価値を生み出す力だ。それは、多様性にとんだイスラエルの人材と、その人材が最大限の力を発揮できるように訓練するプログラムあってこそ成り立つものなのだろう。
そうした人材を育て、新たな産業を育成していくことこそが、いまの日本に求められているものだと新井氏は主張している。現在の日本においてそれを実現することは極めて困難でもあるだろうが、たしかにそのとおりかもしれない。そのためにも、イスラエルが成し遂げてきたことから学びを得たいものである。
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いんなみ あつし / Atsushi Innami
1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。「ライフハッカー・ジャパン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」「文春オンライン」などで連載を持つほか、「Pen」など紙媒体にも寄稿。『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)、『先延ばしをなくす朝の習慣』(秀和システム)など著作多数。最新刊は『抗う練習』(フォレスト出版)。
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