木村大作監督が語る撮影に対する“覚悟" 俺は風景に詩情がでるまで撮らないんだ

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松山ケンイチはじめ役者たちも覚悟を決めてくれた

――撮影には体力が重要になると思います。山での撮影は体力的にそうとうな負担になったのではないでしょうか?

そりゃしんどい。でもこれが不思議なんだけど、山に長くいればどんどん強くなるんだよ。『劔岳 点の記 』に入る前は、体力作りのために走ったり、神社の階段を上がったりといったこともやってみた。階段を上がり下がりも、最初は1日に1回しかできなかったが、10日ぐらいすると何往復かできるようになった。それで俺も体力がついたなと思って、実際に山に行ってみると全然駄目だった。

でも、山で日々(撮影を)やっていると、どんどん体が軽くなる。やはりその場所に行かないと駄目なんだよね。だからスタッフやキャストには「トレーニングは何もやらなくていい。とにかく早く来い」と言う。そのほうが早いからね。

――俳優にとっても、気軽に参加するたぐいの映画ではないように思うのですが。

やってみたい、興味があると言ってくれればいい。覚悟を決めれば、あとはものすごく楽しいですよ。特に蒼井優さん、松山ケンイチさんなんかは若いということもあったけど、本当に強かった。彼らは覚悟ができているわけだよ。たとえば松山ケンイチさん。彼は、雪の中で人を担いで歩けるのかどうか、撮影前にテストをしたいから「木村監督、一緒に雪山に行ってくれませんか?」と言っていました。

主演俳優がそう言うんだから。俺と、助監督とガイドと松山さんは、ちゃんと雪の中、4人で八ヶ岳の硫黄岳まで行ったのです。そのときにこいつは強いなと思ったな。松山さんは青森育ちだから、雪の中を歩くのに慣れているんだよ。助監督を担いでみて、「きついですねえ」と言っていた。そりゃきついよ。でも、そういうことも撮影ではやらなきゃいけない。松山さんはもう覚悟を決めた。そうすれば、現場で突然、「こういうふうにやれ」と言われても、強いわけだよ。

もちろん映画だから、「10秒間だけ」といった具合に、細切れで撮影することだってできる。でも松山さんは「遠くのほうから歩かせてください。それでいちばん疲れたところを撮ってください」と言ってきた。だからあの映画に出てくる、松山さんの疲れた表情は全部リアリティなんだよ。

80キロくらいある人間を担いで崖を下りるシーンも、頭から最後まで全部フィルムを回している。フィルムキャメラ3台を同時に回しているわけですよ。あいつの叫び声や、歪んだ顔なんかもしっかりと本編で使っている。それがリアリティなんだよ。

役者というものは、「アップだけ10秒間撮ります」なんて言ったら、疲れていてもいい顔をしようと思うものなんだよ。でも松山さんの場合はリアリティだから、完全に顔が歪んでいるよね。この映画にはそういうところが随所にあるわけ。

松山さんは試写を見終わった後に俺のところに来て、「今まで自分はいろんなことをやってきたけど、この映画では今まで見たことがない自分の自然な表情が随所にあって、本当にうれしいです。僕は芝居しないほうがいいんですかね」と言っていた。それが松山さんの感想だよ。そういうふうに言ってくれて本当にうれしかったね。

(C)2014「春を背負って」製作委員会

(後編は後日配信予定)(撮影:梅谷秀司)

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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