国家機密暴露した「スクープ」の意外な舞台裏 記者が「ペンタゴン・ペーパーズ」入手した経緯

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空港でシーハン夫妻は帰りのフライトの座席を1席余分に購入し、その座席にスーツケースを乗せて、がっちりとシートベルトで固定した。常に目の行き届くところに置いておきたかったのだ。

ワシントンに戻ると、担当の編集者がシーハンから受け取った文書のサンプルとメモを携えてニューヨークに向かった。シーハンが記事化に向けて作業を進められるよう、本社の了解を取り付けるためだった。

震え上がる顧問弁護士

シーハンは1人の編集者とともにワシントンのジェファーソンホテルの1室に身を隠し、数週間にわたって文書の読み込みと要約作業を続けた。事情説明のために、本社の編集幹部からニューヨークに呼び出しがかかったのはそのころだ。西43番通りにあるニューヨーク・タイムズ本社での会議には、顧問弁護士も同席していた。顧問弁護士は見るからに震え上がっていた。

「氷水の入ったバケツを頭からぶちまけられたかのようだった」と、シーハンは当時の様子を振り返った。「私が事情を説明するのを聞いて、この男はいったい何ということをしゃべっているんだ、と弁護士は恐怖におののいていた。弁護士はこう繰り返していた。『この場でそんな話をしてはならない。秘密を守れずに漏らす者が出てくるだろう。われわれは重罪を犯したかもしれないんだぞ』」。

シーハンと担当編集者はマンハッタンのミッドタウンにあるヒルトンホテルの1室をあてがわれ、ここで仕事を続けることになった。ほどなくして編集者がさらに1人、記者が3人、警備員数人が加わり、部屋にはダイヤル錠のついたファイリングキャビネットが設置された。

最終的には数十人のスタッフが隣り合った3つの部屋に陣取り、24時間体制で作業が行われるようになった。「文書の全容を整理し、報道の全体計画も組み上がった。そして私たちは記事をじゃんじゃん書き始めた」。

第1弾掲載の数週間前、シーハンはエルズバーグに合図を送ることにした。エルズバーグがうっかり政府に情報を漏らすといけないので、掲載予定を直接伝えることはしたくなかった。ただ、エルズバーグからは何らかの形で「暗黙の同意」を得ておきたかった、とシーハンは語った。「良心の問題だ」。

そこでシーハンは、メモだけでなく、今度は文書そのものが必要になった、と伝えることにした。というのは、エルズバーグはこれまで、こう言っていたからだ。文書はしかるべきタイミングで渡す。つまり文書を渡せば、ニューヨーク・タイムズが好きなように使うだろうということは承知のはずだった。今回は、文書を渡すことにエルズバーグは同意した。

次ページエルズバーグに「サイン」を送ったが…
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