国家機密暴露した「スクープ」の意外な舞台裏 記者が「ペンタゴン・ペーパーズ」入手した経緯

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加えて、記事掲載が確約される前に文書を手渡したら、ニューヨーク・タイムズの誰かがFBI(連邦捜査局)に密告するとか、「FBIが何らかの形で嗅ぎつけて、私の手元にあったほかのコピーを押収しに来る」展開になることを恐れたとも書いている。

しかしシーハンには、エルズバーグは「投獄されること」を恐れているように見えた。エルズバーグは「悩み苦しんでいた」とシーハンは語った。

シーハンによると、エルズバーグは深刻なリスクを冒していた。文書を何部もコピーしたうえに、不用意にも自身の小切手でコピー代金を支払っていたからだ。公聴会を開くよう議員に働きかけてもいた。「ニューヨーク・タイムズには、この男を守る方法がない」と思った、とシーハンは振り返った。エルズバーグは「秘密」のネタ元ということになってはいるが、実際には「至るところに痕跡を残していた」(シーハン)。

「司法省に告げ口するような政治家にエルズバーグは早晩、目をつけられることになるのではないか。そんな不安が頭をよぎった」とシーハンは語った。そうなれば、その政治家は司法長官に電話して「『おい、ニューヨーク・タイムズが何やら、どでかい秘密文書をつかんだぞ。出どころはダン・エルズバーグだ』と伝える」に違いない。

「この文書は政府の保管庫には戻させない」

事は一刻を争うということを、シーハンは悟った。情報が漏れた途端、政府は記事を掲載させまいと裁判を起こすだろう。その場合にはニューヨーク・タイムズと司法省は法廷で争うことになるが、問題が機密文書だけに内容を報じる前に記事が差し止めとなれば、判事も国民もその重要性を知りえないまま、裁判が行われることになる。

エルズバーグの変心には「本当に腹が立った」と、シーハンは振り返った。シーハンもエルズバーグと同じく、ベトナム戦争に反対で、戦争を止めるために自分なりにできることをしようと考えていた。「だから、エルズバーグが『読んでメモをとるのはいいが、コピーはダメだ』と言ったときには、かなり頭にきた。エルズバーグが手に負えない存在になったという事実も、腹立たしかった」。

「この文書は二度と政府の保管庫には戻させない」。シーハンはこのとき、そう決意したという。

ワシントンに戻ったシーハンは、妻のスーザン・シーハンに事情を打ち明けた。スーザンは雑誌『ニューヨーカー』の記者だった。シーハンは妻にこう言われたのを覚えている。「私があなたなら、その状況をうまくコントロールするわ」。エルズバーグに調子を合わせながら、彼を守るために最善を尽くす。だけど文書は手に入れてニューヨーク・タイムズに持ち込む。「ゼロックス(でコピー)するのよ」。

シーハンは再びケンブリッジに出かけ、文書の読み込みとメモ取りを続けた。そんなとき、エルズバーグが短い休暇でその場を離れることになった。それを知ったシーハンは、こう頼み込んだ。留守中も文書が保管されているアパートで作業を続けさせてほしい。エルズバーグは同意し、シーハンにアパートの鍵を渡した。そして、こう言って念を押した。コピーはダメだぞ。

シーハンは何も言わなかった。

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