楠木:僕は今でも読書部ですよ。むっちゃハード。体育会系(笑)。普通の人が入ったら泣きが入りますよ。ま、部員はひとりだけですけれど(笑)。
為末さんには、『走りながら考える』(ダイヤモンド社)という著作があるくらいですからね。僕も考えることは大好きです。走ったり跳んだりというのは、ひたすら嫌いなので、椅子に座って考えるタイプですが(笑)。
為末:考えるというか、もうちょっと詳しく言うと、考えたことを、自分の身体で検証していく行為が好きなのです。陸上競技、特にトラックを走る種目は、走ればすぐに結果が出る。走るときのテクニックやトレーニング方法などを試してみて、タイムを測れば、試したことが正しかったのかどうかがすぐにわかります。自分のカラダを使って実験しているようなものです。
楠木:それは、仮説・実験・検証みたいなプロセスで、研究者の仕事に近いかもしれませんね。
為末:そうですね。ただ、自分の身体で検証するといったことは、陸上競技だから可能だともいえます。ラグビーやサッカーなどの球技の団体競技は、チームが勝ったときでも、何がその直接的な勝因となったかがわかりにくいでしょう。陸上はタイムがあるから効果が測定しやすいと思います。特に僕はその傾向が強かった。
楠木:なるほど。面白いですね。そういったトレーニング方法も含め、考える作業というのは、アスリートの場合、普通はコーチがやる仕事ですよね。為末さんは、現役時代はコーチをつけていなかったわけですが、それも自分で考えることが好きだったからでしょうか。
為末:コーチをつけるのをやめようと思ったきっかけがあるのです。中学と高校のある時期まではコーチがいて、人にも恵まれたおかげですが、特に問題を感じませんでした。でも、高校時代にトレーニング方法など、自分のやり方を押しつけてくるタイプのコーチがいて、「あ、これはもう無理だな」と感じる瞬間があったのです。押しつけられることに我慢ができなくなったわけです。それから、人に指示されることが嫌いになって、大学もコーチがつかないことを条件にして選びました。
楠木:僕も、何が嫌いかって、人から指示されるのが嫌いなのです。もっと言うと、チームワークも向いてない。「お願いだからひとりにさせて!」というほうです。よーくわかり合っている少人数のチームならいいのですが、組織的に動くことが下手。若い頃はこれを克服しようと努力してみましたが、結局、無駄でした。
為末:お気持ち、よくわかります(笑)。
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