「親が離婚した子」が大人になって思うあの頃 責める気持ちはない、SOSが届く場所にいて

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中学生で、思春期真っただ中にいた兄はその後、荒れた。暴れたり、ごはんも食べずに部屋に引きこもったり。その後、落ち着いたが、「兄には、千春はよくまっすぐ育ったね、って言われてます」。

父親がなぜ出ていったのか。どのように離婚に至ったのか。子ども心に、聞いてはいけないと感じていた。家の中で父親の話題が出ることはほとんどなかったが、母親から「養育費とか全然、払ってくれないんだよ」と言われたことがある。いやな気持ちになった。父親にも、そんなことをわざわざ伝える母親に対しても。

「お金に困っているわけじゃないから、別にいいんですけど、離れていても応援しているよ、という気持ちを示すのはやはりお金だと思うので、払ってくれていないのだとしたら悲しいな、と思います」

「会いたい」と口に出したことはない。母親からは「会いたいって言うのは、家族に対する裏切りだよ。おじいちゃん、おばあちゃんが悲しむよ」と言われているからということもある。父親は、祖父から引き継いだ会社をもって家を出た。祖父母や母が父を憎む気持ちは、よくわかる。でも、実は高校生のとき1回だけ父親の会社名をネットで調べ、書かれていた会社所在地まで見に行ったことがある。

「会社のあるビルの前まで行ったけど、もちろん中に入る勇気はなくて、ビルの前で2〜3時間、突っ立っていました」

会うのは経済的、精神的にも自立した大人になってから

20歳を迎えた今、千春さんは親の離婚をこう受け止めている。

「父にも父の人生があるから、離婚をしたことを責める気持ちはまったくない、そこは父親の気持ちを尊重したい。でも、子どもがいるからには、何らかの形で責任をとってほしかった」

千春さんの記憶の中の父親は、明るくておおらかで、千春さんのことを全肯定してくれる優しい人だった。小学4年生で中学を受験すると決めたときも、千春の好きなようにしたらいいと背中を押してくれ、「千春にはどんな可能性もあるんだよ。何にだってなれるんだよ」と話してくれた。そんな父親のことが、千春さんは大好きだった。でも、今「会いたいか?」と聞かれると、少し微妙だ。決めているのは、今の家に世話になっている限り、自分から会いにいくことはしない、ということ。

「大学を卒業し、経済的にも精神的にも自立した大人になってから、『こんなに成長したよ』って会いに行こうかな、と思っています」

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