コロナで魅力度が一気にアップした「5つの街」 独断!2021年版「ゆく街・くる街」はこうなった

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北九州市(福岡)

コロナ禍で空き家、別荘に目を向ける人が増えている。安く、広い住宅を都心部以外で手に入れたいという動きで、空き家の掲示板「家いちば」では緊急事態宣言下の4月から5月で月間のページビューが100万PVから150万PVへと1.5倍に増加、その後も毎月増加を続けており、11月時点では180万PVとなっている。

同サイトには日本全国の空き家情報が掲載されているのだが、その中でも人気が高く、取引件数の多いエリアがあるという。福岡県北九州市である。これまでタダから100万円くらいまでの空き家が13軒掲載されており、途中で売却を取りやめた案件を除く成約率は8割近く、一般的な成約率3割ほどと比べると人気度が分かる。

「坂の上」の空き家に注目集まる

その一方で、不動産ポータルで検索してみると北九州市では新築マンション分譲も堅調である。2020年12月20日時点で40件近い新築マンションが出ており、価格は3000万円~6000万円。中には1億円近い物件もある。その一方でタダの空き家もあるのは一見、謎だ。

それは戦前、戦後の2度の人口急増期に坂や山の上にある市街化調整区域での住宅建設が行われた結果だ、と語るのは門司港近くのゲストハウス「PORTO」オーナーで北九州市のオンライン移住相談員も務める菊池勇太氏だ。

「駅から歩いて5分で、スーパーなど生活インフラは整っているのに、坂の上で接道がないなどといった市街化調整区域に建つ築60~70年の住宅は建て替えができないため、タダでもいいから処分して欲しいという例が急速に増えているのです」。

しかも、当時、高台に家を建てた人は高額所得層が中心。現在、菊池氏が活用を依頼されている築80年の住宅は総檜作りで中庭や大広間のある日本家屋。立派すぎて、広すぎて使いにくいと一般的な不動産市場では相手にされにくいのである。

門司港周辺の清滝エリア。さほど市街地から離れていないのに古い建物が点在していることが分かる(写真:金利明)

人口ピーク時の1979年(106万9000人弱)から比べると2020年1月の94万人弱は大幅減ではあるが、それでも100万人近い人口がいる都市で、産業、文化、歴史などには恵まれている。新幹線で16分しか離れていない福岡市よりはほどよく田舎で、海、山も近い。コロナ禍初期に問合せの増えた北海道、沖縄、阿蘇などと違い、少し遅れて今、問合せが増えているそうで、来年以降移住者が増えるのではないかと菊池氏は見る。

気になるのは坂の状況だが、首都圏有数の坂、階段の街・横須賀市に比べるとさほどではないとのこと。「福岡県は西鉄バスのバス網が張り巡らされており、歩いてもバス停までが大半。坂の入り口でほとんど平坦な市街化調整区域という物件もあります」。そのお得な感じが人気を呼んでいるわけである。

最後に北九州市のお隣、大型開発が続く福岡市について。10月に現地を訪れた時には話をしたほぼすべての人が開発続行への懸念を口にした。賃料高騰で飲食店価格も周囲とは別格の高値となった中州の人出は少なく、地元の人が行かない繁華街の辛さが想定できた。「福岡に移住しても暮らしは東京と変わらない、だとしたら北九州のほうが楽しいはず」という選択をする人もいると菊池氏。経済発展は大事だが、その街らしさもまた、人を惹きつける要素であることを忘れてはならない。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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