ネズミは「チーズが好き」は人間の思い込みだ 野生のネズミの本当の好物は「穀物や果実」

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一方、ネズミに話を戻すと、結論としてネズミはチーズが好きではないと考えられている。単なる人間の勘違いだったのだ。

シェイクスピア作品でもチーズのことが言及されており、その勘違いの歴史は400年以上にもなるという。古い文献にもたくさん記述が発見されているものの、いつどこで始まった勘違いであるかはまだわかっていないらしい。私もよかれと思い、チーズフレーバーのハムスター向けお菓子をネズミにプレゼントしていたが、彼らにとってはありがた迷惑だったのかもしれない。

野生のネズミの好物は穀物や果実である。そして、チョコレートのような甘いお菓子もこよなく愛している。

実は嗅覚の鋭いネズミにとってチーズの匂いはあまり魅力的なものではなく、とくに強い香りを持つブルーチーズが苦手らしい。嗅覚の鋭さは、嗅覚受容体遺伝子の数によって推定されているが、現在報告されている中ではトップのアフリカゾウの約2000個に、ラットの約1200個が続く。人は約400個とネズミの3分の1程度なので、われわれが心地よいと感じる匂いもネズミからすれば相当強烈に感じる可能性があるのだ。

個々のネズミによっても、好みの違いがある

もっともネズミはこだわりの少ない動物なので、なんでもよく食べるし、食べられるものにかぎらずなんでもかじることで知られている。ネズミの仲間の歯は生涯伸び続けるため、硬いものをかじって削らなければいけないのだ。かじるものは、くるみでも木でも電線でもなんでもよい。もちろん、チーズも例外ではない。とくに長期保存の効く硬い皮のチーズであれば歯を削るのに打ってつけだ。実際、保存していたチーズがかじられていたケースは多くあるようだ。

『ネズミのおしえ ネズミを学ぶと人間がわかる! 』(徳間書店)。書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

個々のネズミによっても当然、違いはある。ハツカネズミのような小さなネズミは穀物を好む傾向にあるが、ドブネズミは肉や魚といった動物性タンパク質を好む傾向にある。同じ種類であっても個体差が大きく、ネズミの好物の違いを利用した実験もあるほどだ。

ちなみに著者の飼っているドブネズミも、主食としてハムスター用のペレットとドッグフードを与えているが、断然、ドッグフードのほうが食いつきがいい。

犬かハムスターでいったら、圧倒的にハムスター側の生き物であると思うが、不思議なものである。

篠原 かをり 作家

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しのはら かをり / Kaori Shinohara

作家。1995年横浜生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院在学中。幼少の頃より生き物をこよなく愛し、自宅でネズミ、タランチュラ、モモンガ、イモリ、ドジョウなど様々な生き物の飼育経験がある。
これまでに『恋する昆虫図鑑~ムシとヒトの恋愛戦略~』(文藝春秋)、『LIFE―人間が知らない生き方』(文響社)、『サバイブ<SURVIVE>-強くなければ、生き残れない』(ダイヤモンド社)、『フムフム、がってん!いきものビックリ仰天クイズ』(文藝春秋)、『ネズミのおしえ』(徳間書店)などを出版。また「世界ふしぎ発見!」「有吉ジャポン」など、テレビやラジオで活躍。雑誌連載や講演会も積極的に取り組んでいる。

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