バイデン次期政権はオバマ政権のリバランシングの失敗を検証し、それを踏まえた新たなリバランシング戦略を打ち出すべきである。
今回、何よりも求められるのは、アジア太平洋地域における包括的かつ多角的な貿易政策を確立することである。アメリカの国益は関税ではなくルール(法の支配)とルールに基づいたビジネス標準の確立にある。アジア太平洋における貿易と投資は中国がもっとも競争優位を持っている分野であり、アメリカの多角的政策関与が遅れるほど中国を利する。
バイデンは7年前の夏、シンガポールにおける安倍晋三首相(当時)との会談で、リバランシング政策を成功させるためには日本の戦略的役割の重要性を強調し、その観点からTPPの交渉を重視していると述べた。バイデン政権は貿易政策に関して、労組の保護主義ともトランプの「アメリカ・ファースト」とも異なるナラティブを用意しなければならない。
次に、競争的共存を軸とする対中政策を確立することである。競争的共存の本質は、競争しなければ、共存できない。そして、競争できなければ、中国に支配される、ということである。ここでは、同盟国と共に中国の地経学的脅威に取り組むことが大切である。
同盟国もアメリカ依存の脱却が必要
もとよりバイデンはコロナ危機の惨状を前に、国内の立て直しを最優先課題にせざるをえない。アメリカの世界への再参画はこれまで以上に選択的に行うことになるだろう。同盟国もアメリカ依存から脱却することが求められる。21世紀のアメリカのアジア・リバランシング戦略を成功させるには、より独立し、しかしより信頼される同盟国との協力が不可欠である。バイデン政権は日本を含む同盟国をそのような方向へと向かわせるよう奨励し、同盟国の力を引き出すべきである。
その機は熟している。オバマ政権のとき、リバランシング政策は対中封じ込めの別名かとアジアは疑い身構えた。いま、日本とアジアの同志国はバイデン政権の本格的なリバランシング政策を待っている。
(船橋 洋一/アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長)
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