バイデン政権にアジア政策転換が求められる訳 米国は新たなリバランシング戦略を追求せよ

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アメリカがアジア戦略において再びリバランシングの必要性を感じたのは2010年代のオバマ政権においてである。それは、中国の攻勢に応えるため地域の同盟国・友好国との防衛協力強化と海軍力の増強を図ったものだった。国防総省は2012年1月の国防戦略指針でアジア太平洋と大西洋における米海軍の艦艇配備を5対5から6対4にする”ピボット“を打ち出した。

しかし、オバマ政権のリバランシングは不発に終わった。オバマ政権の8年間、アメリカのアジア太平洋における兵力規模はほとんど変わらなかったし、国防予算の圧縮で調達や訓練の関連予算も切り詰められた。

オバマ・リバランシングが成功しなかった理由

なぜ、オバマ・リバランシングは成功しなかったのか。

まず、アジア全体の戦略を作る前に米中関係の枠組みづくりに傾斜し、アジア政策を対中政策の枠組みの中に組み込もうとしたためである。国防総省の“ピボット”指針表明の1カ月後、中国は米中の「新式の大国関係」構想をアメリカに提案した。その内実は、米中間のこの地域における“新式の勢力圏棲み分け”を隠れた意図とするものだったが、オバマ政権は、一時、それにはまりかけた。

次に、2012年からのフィリピンのスカーボロー礁をめぐるフィリピンと中国の領有権紛争に関して結果的に中国の占拠を許したことである。アメリカは、その後の南沙諸島で人工島や軍事施設などの建設を進める中国の修正主義的行動も制止できなかった。それは、アメリカの抑止力とクレディビリティへの疑問を深めることになった。

それから、リーマンショック後の中国国内のアメリカ衰退論の浸透と中国の覇権的野心(「中国の夢」)の地政学的リスクとAIや5Gをはじめとするハイテクとサイバー・パワーの大躍進と経済力を武器化する地経学的挑戦の脅威を認識するのが遅れた。

そして、グローバル化と第4次産業革命の国内産業と経済社会への負荷とそれに伴うポピュリズムの噴出と政治分断への対応も不十分だった。オバマ政権はTPP交渉をまとめ上げたにもかかわらずそれを批准できなかった。2016年の大統領選挙では共和党のトランプだけでなく民主党もヒラリー・クリントンはじめ4人の候補全員がTPPに反対した。

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