地政学の激動の時代
2020年の1年間を振り返ると、世界史的な大きな転換となるような地政学的および地経学的な変動にあふれていたことを改めて実感する。何よりも、新型コロナウイルスの感染拡大により世界が混乱し、またアメリカの大統領選挙に世界が翻弄された。
それぞれの諸国が感染拡大をどの程度効果的に抑制するかによって、コロナ後の世界経済、さらにはパワー・バランスが大きく変容することになるだろう。そのような世界情勢における中心舞台が、インド太平洋地域である。この地域において急激に変化するパワー・バランスを適切に認識することが不可欠だ。
それではこのインド太平洋地域における国際関係は、どのような性質のものであろうか。このインド太平洋地域における基本的な構造として最も重要なのが、アメリカと中国との間の地政学的および地経学的な対立である。
アメリカは、イギリス、カナダ、オーストラリア、そしてニュージーランドといった価値を共有するリベラルな民主主義諸国、いわゆる「ファイブ・アイズ」としてのインテリジェンス協力、さらには防衛協力を促進してきた。そして、この地域の安定化と自らの影響力の維持のためにも、日本との同盟関係が最も重要な位置を占めている。
他方で中国は、戦略的な意図からロシアとの協力関係を強化することに加えて、「一帯一路」構想やアジアインフラ投資銀行(AIIB)などを通じて、ユーラシア大陸外縁部において地域秩序形成を主導しようとしている。
そのような中で、日本には戦略的で積極的な外交を展開するという立ち位置が求められる。2016年8月以降、日本外交が掲げてきた「自由で開かれたインド太平洋」構想は、そのような主体的なイニシアティブとして、国際社会から幅広い支持を得ている。おそらく過去1世紀半の日本外交の歴史の中で、これほどまでに日本が提唱した外交構想が国際社会に浸透して、幅広い支持を得たことはなかったのではないか。
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