過去の1世紀半、ユーラシア大陸の外縁部においては、「大陸国家」と「海洋国家」との地政学的な対立の構図が持続してきた。大陸における覇権的な大国の座は、冷戦時代のソ連から21世紀には中国へと移行しつつある。他方で、19世紀にイギリス帝国の手中にあった海洋覇権は、その後の20世紀半ば以降、現在に至るまでアメリカによって支配されている。
そして、この2つの勢力に挟まる地域が、海と陸が接することになる朝鮮半島、東南アジア、そして中東であった。さらには共産主義諸国と自由主義諸国との間のイデオロギー対立であった。それゆえ、大陸と海洋が交わる半島や海峡などの地域で、冷戦時代は米ソの2つの勢力の摩擦は火の粉を伴う実際の戦闘へとエスカレートした。すなわち、朝鮮戦争と、ベトナム戦争、中東戦争である。
日・ASEAN関係は地域秩序形成のカギ
しかしながら、現在はかつてとは大きく状況が異なっている。ASEANは、域内での利害の対立が見られながらも、インド太平洋地域の将来を左右するような重要な地位を占めているといえる。ASEANは中国にとって今や最大の貿易パートナーとなっており、それとの関係は中国経済の将来を左右する。日本外交にとっても、日・ASEAN関係は、単なるバイラテラルな関係としての重要性にとどまるのではなく、地域秩序を形成するうえでのカギとなるような重要な意義を持っている。
実際に菅義偉政権の日本外交にとっても、ASEANは最重要地域の1つとなり、それゆえ菅首相は首相就任後に最初の外国訪問先としてASEANの議長国となっていたベトナムと、域内の最大の人口と経済力を有するインドネシアとの両国を選んだ。
日本とASEANの関係は、長年の信頼関係に基づいている。2017年のASEAN10カ国における世論調査で、日本と「友好関係にある」と回答した人が89%であり、日本が「信頼できる」と評価した人は91%という高い数値となった。興味深いのは、「今後重要なパートナーとなる国」として日本と回答した人が46%と、中国の40%や、アメリカの38%を上回っていることである。中国の影響力が拡大する中で、むしろバランスをとるためにも将来においてもASEANは日本との関係を強化したいのであろう。
そのような中で、日本では9月16日に史上最も長く首相を務めた安倍晋三がその座を退いて、それまで官房長官であった菅義偉が新たに首相となった。菅首相は基本的に、それまでの安倍政権の対外政策を継承する意向である。他方で、インド太平洋地域の将来を考えるうえで、この秋には極めて重要な2つの新しい動きが見られた。
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