日本にインド太平洋地域で求められる重い役割 「自由に開かれた」構想の下で指導力を発揮せよ

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第1は、10月6日に東京で開催された、日米豪印4カ国の外相会談、いわゆる「クアッド」の開催である。このような対中包囲網とも見られる動きに、中国政府は強硬に反発した。

第2は、その1カ月少し後の11月15日にテレビ会議で合意された、「地域的な包括的経済連携協定(RCEP)」の署名である。前者がアメリカを中心とした民主主義諸国の結束であるのに対して、後者は中国を中心としたこの地域における経済的な現実が求めた帰結である。

それでは、日本はこの2つの枠組みをどのように両立させて、ASEANやオーストラリアといったパートナーと提携していけばいいのか。米中対立という構図の中で、この2つの動きはどのように位置づけたらいいのか。

ここで重要なのは、日本も、オーストラリアも、ASEAN諸国も、米中の全面的な対立、および米中間の全面的なデカップリングを望んではいないということである。これらの諸国にとって、中国との経済的なつながりはあまりにも大きく、それを全面的に破壊することはできない。

日本がアメリカにどうアプローチできるか

したがって、アメリカが対中外交をよりいっそう強硬化していく中で、アメリカの対中政策とは異なるアプローチを日本が提示できるかどうかが重要となっている。日米同盟を重視することと、アメリカとは異なるより包摂的で、この地域でより幅広い支持が得られるようなインド太平洋政策を展開することは、必ずしも二律背反的なものではない。

ここで日本は、2つの重要な姿勢を示す必要がある。第1には、新たにスタートした菅政権においても、これまでの安倍政権同様に「自由で開かれたインド太平洋」構想を促進して、自由で開かれた国際秩序を擁護するうえでの指導力を発揮することである。第2には、ASEANとの信頼関係を基礎として、いかなる国も排除しないような、包摂的なルールに基づく秩序を確立することだ。

そのような中で、バイデン次期大統領は、オーストラリア、日本、韓国という、この地域におけるアメリカにとっての最も重要な同盟国の首脳との電話会談を行った。ところがバイデン次期大統領はあえてそこで、「自由で開かれたインド太平洋」という、すでに定着しつつある用語を用いずに、「インド太平洋地域の平和と安定」という新しい言葉を用いている。これはどういうことであろうか。

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