日本にインド太平洋地域で求められる重い役割 「自由に開かれた」構想の下で指導力を発揮せよ

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新政権が成立すると、前政権からの対外政策の刷新を強く求める傾向がしばしば見られる。そのような中で、同盟国である日本は、アメリカにおける政権交代による振り幅に対して過度に振り回されるのは得策ではない。バイデン新政権に対しては、丁寧に日本の基本的な外交方針を説明することが求められる。

日本政府がこれまで促進してきた「自由で開かれたインド太平洋」構想は、すでにフランス、ドイツ、イギリスのような欧州諸国や、ASEAN諸国、そしてオーストラリアやカナダ、インドといった多くの国々からの支持や同意を得て、国際社会で確立しつつある。

バイデン次期大統領の政権移行チームは、おそらくはそのような日本政府のより包摂的な「自由で開かれたインド太平洋」構想の意図を十分に認識せずに、この日本の外交構想を、トランプ政権の強硬な対中包囲網の形成のアプローチと単純に同一視したのではないか。そのような誤解を前提に、トランプ政権の外交政策を刷新したいという欲求が、バイデン次期大統領の一部の外交ブレーンが「自由で開かれたインド太平洋」という言葉を敬遠する理由になっていると考えられる。

日本に求められるバイデン新政権への働きかけ

日本政府に求められるのは、そのようなバイデン次期大統領の政権移行チームの誤解を解消して、政策を過度に刷新しようとするような新政権の指向性を抑制するように働きかけることだ。これまでも日本政府は、アメリカとの緊密な信頼関係を基礎として、対中認識を調和させるための多大な努力を行ってきた。

日本が発案し、展開し、国際社会での幅広い支持を得てきたこの構想を、アメリカの次期政権に過剰に忖度をして捨て去ることは賢明とはいえない。また、それがトランプ政権によって創られたものだという認識をただして、日本外交がそれを通じて目指してきたことを正確に伝えなければならない。

いわば、「連結性」や「包摂性」を基礎とした「自由で開かれたインド太平洋」構想は、米中衝突を回避するための重要な基礎となりうる。そのように、日米間のインド太平洋戦略をめぐる認識の齟齬を調整して、相互の理解を深めることこそが、「菅=バイデン時代」の新しい日米同盟の基礎として不可欠である。

(細谷雄一/アジア・パシフィック・イニシアティブ研究主幹、慶應義塾大学法学部教授)

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

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