
欧州連合(EU)がインド政策を活発化させている。インドは人口が14億人を超える巨大市場だ。1人当たり所得は2500ドル(約40万円)程度と低いが、着実に増加している。加えてインドは、希土類元素(レアアース)に代表される鉱物資源にも恵まれている。そのインドを、EUは自らの供給網(サプライチェーン)に組み込みたい。
つまり、中国への経済的依存を弱める観点、すなわち「対中デリスキング」を実現するために、EUはインドに白羽の矢を立てたのである。政治的には、確かに近年のインドではナレンドラ・モディ首相によるいささか強権的な政権運営が定着しているが、とはいえモディ首相もまた、普通選挙という民主的なプロセスに基づいて選出された指導者だ。
民主主義や法の支配、基本的人権といった概念を普遍的な価値観として重視するEUにとって、インドは中国よりも協力関係を築きやすい。少なくとも、EUはそう考えている。
ところで、もともと対外拡張路線を歩む中国に対抗し、価値観を共有するインドや太平洋諸国との協力関係を戦略的に構築すべきだと打ち出した先進国は、日本だった。故安倍晋三元首相が打ち出した「開かれたインド太平洋」というコンセプトがそれである。
これにはアメリカも賛同し、EUもまた先進国として、また実質的にアメリカと連携した「欧米」として、インドとの関係の強化を図ろうとしていたが、その風向きは大きく変わった。その理由はアメリカの変質にある。具体的には、年明けに誕生したトランプ政権の存在だ。
相互関税の名の下に世界各国に圧力を加えるトランプ政権は、EUに対しても24%の追加関税を課すと表明して、貿易赤字削減のための条件を引き出そうとしている。そうした高圧的なアメリカとの協力など不可能だから、EUは独自にインドとの関係強化を試みるという現実的方向に舵を切った。いわば「対米デリスキング」の観点が、EUのインド政策に加わったのである。
年内の自由貿易協定合意が一大目標に
またトランプ政権は、インドに対しても26%の追加関税を課そうとしている。インドとしても、ラブコールをかけておきながら圧力を加えてくるアメリカに対して、慎重な対応を取らざるをえない。変節が著しいアメリカをつなぎ止めるよりも、自らにより強く協力を望むEUとの関係を深めることのほうが実利的というインドの判断があるようだ。
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