東大生がいつも「一応、東大です」と謙遜する訳 日本人が知らない「東大の呪縛」が招く弊害

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もう一つが、「東大卒ということにことさら注目せず、等身大の私を評価してください」という気持ちだ。

望もうが望むまいが、「東大卒」という学歴は人との関わりのなかのあらゆるシーンで、東大卒業生の最大のレッテルとして機能する。いくら「学歴などその人についてのごくごく小さな要素でしかない」と言われようとも、日本の社会のなかで「東大卒」の看板は今なお大きく、その人が持つほかの特徴の大半をたやすく覆い隠してしまう。

仕事やプライベートでどれだけ活動の実績を積もうとも、どれだけ関係を深めようとも、まわりから貼られた「東大を出ている人」というレッテルとそれに伴うイメージを覆すことは容易ではない。筆者が東大卒業生に行ったインタビューでも、「東大卒のレッテルによって苦労をした」と話す人は多かった。

「この人、東大卒なんですよ!」と紹介される苦痛

筆者は仕事の合間に街のスポーツサークルに通って運動を楽しんでいるが、新しい人が入ってくるたびに「この人は東大卒なんですよ!」と紹介されている。

すると、新人さんからは「すごく賢いんですね」「そういえば変わった感じがしますね」「(冗談半分に)東大王ですか?」などと言われるが、これには「いえ、そんな……」という返しくらいしかできない。毎度のようなこのわずらわしさは、「東大卒あるある」である。

ほかのメンバーなら、所属している会社名、仕事の内容、サークルの試合でのプレースタイル、家族、性格といった特徴でもって紹介されるのに、東大を出て10年以上がたって今なお、著者の世間からの最大の評価は「東大卒であること」なのだ。

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いつまでたっても東大卒であることが自分の最大の功績と見なされるのなら、18歳かそこらのときに倍率3倍程度の東大入試をパスしたその瞬間が人生のピークで、それ以降に目立った活躍をしていないみたいではないか。そう思うと、けっこうつらいものがある。

東大卒のレッテルを上書きするほどの成果を仕事や趣味の活動であげ、その実績がまわりにも認知されて初めて、「東大の呪縛」から逃れることができるのであるが、それは並大抵のことではない。とくに最近では、東大生をタレントとして起用するクイズ番組やトーク番組がテレビで全国放送されていることで、このレッテルはより強力になったようにも感じる。

人には「なんだお前は。東大を出ておきながら、嫌みか」と言われるかもしれない。しかし、これらは嫌みでもなんでもなく、多くの東大生・東大卒業生の素直な本音だ。

「自意識過剰だ」と言われるかもしれない。たしかに。しかし、意識しまいとして、かえって意識をしてしまう。そんな自分に嫌気が差す――たかが出身大学を問われているだけなのに、このようなわずらわしさを感じている東大生や東大卒業生は多いのだ。

池田 渓 ライター

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いけだ けい / Kei Ikeda

1982年兵庫県生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程中退。フリーランスの書籍ライター。共同事務所「スタジオ大四畳半」在籍。

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