「語るより、絵を描け」(Show, don’t tell)。アメリカの子どもたちが徹底的にたたき込まれる法則です。
この法則は、例えば「歩く」という言葉を使いたくなったら、「歩く」ではなく「右足を引きずる」「うれしそうにスキップする」という表現にしましょう、あるいは「話す」なら「まるで政治家の辻立ちのように叫ぶ」「お経を読むように、低く深い声で話す」という表現を使いましょう、という意味です。
つまり、「情景が浮かぶように表現しなさい」ということです。
日本人はこうした「描写的な言い回し」があまり得意ではなく、「さまざまな」「いろいろな」「しっかりと」などなど、まるでどこかの政治家のような曖昧模糊とした一般語を使いたがります。
その結果として、「話が伝わらない人」になっているケースが少なくないのです。
逆にいうと、先ほど紹介した不倫劇では、ディテールが過度に描写的で、「聞き手の頭の中にあるキャンバスにしっかりと『絵』が描かれてしまった」のです。
「100万人の顔より1人の顔」の法則
この「聞き手の頭の中に『絵』を描きこむ」話法は非常に効果的なテクニックの1つです。ディテールを際立たせ、鮮やかな絵を見せるためには、場所や人を「絞り込む」ことが大切です。
要するに、「特定の顔」が見えるか見えないかで、人の想像力や共感が及ぶかどうかに大きな差が出るということです。私は、これを「『100万人の顔より1人の顔』の法則」と名づけています。
これは、何百万人の人の苦難よりも、たったひとりの悲劇のほうが人々の心を動かすという心理的現象から編み出したルールです。
例えば、アメリカを大きな渦に巻き込んだ黒人差別問題は、たったひとりの男性、ジョージ・フロイドさんの死により、大きなムーブメントとなりました。
シリアの難民問題に、世論はなかなか動きませんでしたが、トルコの海岸に打ち上げられた3歳の男の子、アイラン君の溺死体の写真に、世界は震撼しました。
ペンシルベニア大学ウォートン校の教授らが行った研究では、「アフリカのマラウィで食糧不足に苦しむ300万人の子どもたちのために」よりも、「マリの7歳の少女ロキアのために」というメッセージのほうが、募金を多く集めたそうです。
これは学術的には「『特定できる命』と『統計的な命』の違い」と言われます。「1人の人間の死は悲劇だが、数百万の人間の死は統計上の数字でしかない」というのは、ソ連の独裁者スターリンの言葉です。
「『100万人よりも1人の顔』の法則」を日ごろのコミュニケーションの中で応用してみると、格段に伝わりやすくなります。
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