「叱る」「褒める」より効果的な「選ばせる」子育て 叱るなら優先順位をつけフォローを意識しよう

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脳科学的にも、思春期の子どもは大人の表情に対するするどい観察力を持っていることがわかっています。彼らはほんの些細な表情の違いも見逃しません。

それゆえ、「自然な顔を見せる」ことが必須なのです。

余談になりますが、この一言声をかけるだけの行為というのは、本当に効果があります。

教師のことを信頼できていない生徒がいると、学年の先生全員でこれをやっていました。学年の先生全員が必ず1日1回は、その生徒に声をかけるのです。

そうすると1週間もすれば、生徒ががらっと変わります。自分は嫌われていたわけではないのだと気づき、教師と信頼関係が築けるようになっていきます。アフターフォローはなるべく早めに、集中して行うと効果があがるのです。

子どもを変える「タイムマシン・クエスチョン」

私が長年、子どもと向き合うなかで、わかったことがあります。問題行動を起こす子どもに対して、どなったり脅したりなど恐怖を感じさせる方法では、子どもの行動をけっして変えることはできないということです。たとえ変わったように見えたとしても、子どもが自律している状態とは言えないはずです。

子どものタイプやどのような問題行動を起こしたかによって、どんな方法がその子にとって有効かは変わりますが、長年私が行ってきた方法の1つに、「タイムマシン・クエスチョン」があります。

これは『<森・黒沢のワークショップで学ぶ>解決志向ブリーフセラピー』(ほんの森出版)にも掲載されている方法で、偶然にもこの本に出合う前から私は同じようなことを、子どもたちに使っていました。簡単ではないかもしれませんが、ご家庭でも取り入れられますので、ぜひ試してみてください。

例えばここに問題行動を起こす、中学2年生の男の子がいるとします。その子に未来を想像させるのです。

「20歳になった君は、どんなことをしていると思う?」

「大学生になっている」「彼女がいる」「バイトをしている」……、彼は自由に想像し、答えます。ここからがキモです。

「じゃあ、大学生になった君は、今みたいな行動をすると思う?」
生徒「もちろんしてないよ」
「なぜ?」
生徒「格好悪いから」
「そうか、そりゃそうだよね。じゃあ、いつ頃(何歳頃に)、君はその行動をやめてるの?」
『麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

ここで子どもたちは、「大人に叱られてその行為をやめるのではないんだ」と気づきます。将来、自分の意思で問題行動をやめている自分がいることを自覚するのです。信じられないかもしれませんが、ときにはその瞬間から、問題行動を起こさなくなる子もいます。

犯罪行為や、命を危険にさらす行為を見過ごすことはできませんが、それでもそれをいつまで続けるか選ぶのは子どもたちです。道を示したり、子どもに強制したりすることは、あまり意味はないのかもしれません。自分で考え、自分で決める、そんな子どもを育てるためには、本人に「選ばせる」ことが大切です。

工藤 勇一 横浜創英中学・高等学校校長

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くどう ゆういち / Yuichi Kudo

横浜創英中学・高等学校校長。1960年山形県生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年から千代田区立麹町中学校長として宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止などの教育改革を実行。2020年より現職。教育再生実行会議委員、内閣府 規制改革推進会議専門委員、経済産業省 産業構造審議会臨時委員など、公職を歴任。著書多数。

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