不動産屋に「あくどいイメージ」が付きまとう訳 一方で消費者の意識にも多少の問題がある

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慣習として、不動産屋は契約時に仲介手数料の半額、決済時にその残額をお客さんに請求している。契約を結ぶまでの段階で、客が不動産屋にお金を払うことはないし、請求されることもない。

一見、この法律は客、つまり消費者側へとても有利な存在に感じる。しかしこの法律が、先のネガティブな結果を生んでいる側面も否めない。というのも、時間の経過とともに、当然だが、そのお客さんにかけている人件費はどんどん大きくなる。内見が複数回続き、積もり積もれば、累積した人件費は相当だ。

それでいて、契約までもっていけなければ、それまでの人件費がすべて損失として戻ってくることになる。もし何件か売り逃せば、その人件費は次の購入希望者で回収を図る。そうしていくうち、いつしか「どうしても契約にこぎつけないと」という考え方が生まれ、正確に情報を伝えるよりも、「ここで売らないとまずい」という危機感を強くする。

人件費に加えて時間も累積する。営業である以上、ほとんどの不動産業者では毎月のノルマが課されているから、時間の管理はとても重要だ。

あるお客さんに投じた時間が長ければ、ほかのお客さんをフォローする時間が短くなる。そうしている間にノルマを達成しなければ、当然会社で怒られ、昇進や給与にも影響が出るようになる。

必要なのは「意志」と「覚悟」

以前放送された不動産業界を舞台にしたドラマ、「家売るオンナ」では、ホワイトボードに各社員の売上が貼り出され、家を売ることができない社員が、上司からプレッシャーを受け、退職を迫られていた。ドラマとはいえ、あれも典型だ。

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家を売ることができなければさらし者になりかねないから、多少強引にでも売りつけようとする。そうした事情下にあって、いつまでも優しくて親切な営業マンでいるほうが難しいし、ある意味であくどくなるのは自然の成り行きだろう。

だからこそ、今やインターネットで簡単に連絡がつくから、無料で動いてくれるからといって、不動産屋をバブル期の「アッシー君」のように扱うことは、絶対に避けたほうがいい。彼らと一緒にいる間、気付かないところで、お金と時間はどんどん積み重なっているはずだ。

そして彼らがいつ気が変わるかは、消費者側からは決してわからない。だからこそ買うなら買う意志、売るなら売るという意志をしっかり持ったうえで、ある程度の覚悟を決めて不動産屋に接するべき、ということは、必ずここで知っておいていただきたい。

山田 寛英 公認会計士・税理士

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やまだ ひろひで / Hirohide Yamada

1982年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒。アーク監査法人(現・明治アーク監査法人)に入所。不動産会社や証券会社を中心とした会計監査実務を経て、税理士法人・東京シティ税理士事務所にて個人向け相続対策・申告実務に従事。2015年、相続税・不動産に特化したパイロット会計事務所を設立。不動産を中心とした相続対策・事業承継を専門とする。各種メディアへの寄稿や講演も。著書に『不動産屋にだまされるな』『不動産投資にだまされるな』(いずれも中公新書ラクレ)など。Youtube「会計士・山田寛英の不動産税金チャンネル」運営。

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