なぜ「数十兆円」も使って景気は悪いままなのか コロナ対策もなお脆弱、お金が回らない不思議

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コロナに備えるために、一部のスペースをコロナ専用に組み替えるとコストが増え、場合によっては既存の患者受け入れを制限する必要があり、これらの対応で病院の経営が苦しくなる。そうなっても病院が困らないよう、損失の穴埋めにも交付金を使えるようになれば、2兆円以上の交付金がより迅速に行きわたり医療体制が拡充されるのではないか。

安倍前政権が策定した、この包括支援交付金を含む補正予算の規模は57.6兆円(第1次25.7兆円+第2次31.9兆円)で、本来はこの金額の追加歳出が実現するはずである。

このなかには、全国民への「10万円給付金」(約13兆円)など、(時間がかかったが)すでにほぼ歳出された政策メニューもある。だが現時点で、全体でどの程度歳出されたのか内閣府は明確なデータを示していない。

このため、推測するしかないのだが、これらの補正予算のメニューには資金繰り支援政策などがあるため、実際に国民に行き渡る(あるいは行き渡る可能性が高い)歳出規模は、25兆円程度だと筆者は試算している。

「18兆円」も特定産業へ、金融財政政策が機能しない?

菅政権は新たな補正予算を8日に臨時閣議決定したが、そもそも従前に策定された補正予算が実際に執行され、それが経済支援政策としてどの程度の効果を発揮したのかを、しっかり説明する必要があるだろう。

約7兆円残っている予備費を含めて、大規模な予算が実際にはスムーズに執行されていないことが、これまで日本経済の復調が鈍いことに大きく影響していると筆者は考えている。8日に決まった追加経済対策では、事業規模が73.6兆円、追加の財政支出が約40兆円となった。この内訳は、コロナ感染拡大防止5.9兆円、成長戦略18.4兆円、国土強靭化5.6兆円、予備費10兆円である。

この財政支出が実際にどの程度追加で歳出されるか、詳細なメニューが未定なので不明だが、コロナ感染抑制と経済正常化の両立につながる企業・家計・医療機関への給付金がどの程度あるのか。

ここで言えるのは、成長戦略という名目の18兆円予算が特定産業への長期間にわたる歳出になるため、家計や企業に短期間で幅広く行き渡る可能性は低いだろう。なかには「1人親世帯に5万円給付」という一部家計に対する追加の支援メニューがあるが、マクロ的には極めて軽微な規模にとどまる見通しだ。

金融財政政策が一体となって経済成長率を高める、いわゆるマクロ安定化政策として今回の財政政策が機能するか。そうなるためには、国債発行金額が数十兆円規模で追加され、そして日本銀行による国債買入が拡大して金融緩和が強化されるか否かが重要になる。

たとえ70兆円以上に事業規模が膨らんでも、日銀による国債購入はほとんど増えないと筆者は予想している。であれば、マクロ的には経済成長押し上げ効果はほぼ現れないだろう。菅政権の経済政策運営には、そうした視点が欠けているように思われる。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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