フランス人が決して「手料理」にこだわらない訳 貴族に嫁いだ女性が見た義母のエレガンス

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義母いわく、いつもなら、せっかく孫たちが来たのだから、ご馳走を作って喜ぶ顔を見たいと思うのだが、さすがに大人数だったので2日も経つと、まるで台所に鎖でつながれているように感じられた。こういうネガティブな気持ちは身体にも心にもよくないので、料理は極力しないで済む献立を考えた、ということでした。

「人間らしい思いやりを示せる自分でいられるよう、状況をコントロールする。そのためには、できないことは諦めるという潔さも必要」と義母は言います。

フランス貴族の「手抜きごはん」

では義母たちは、コロナ禍でどのような食卓を囲んでいたのか。わが家に戻った息子たちに、「別荘では毎日どんな食事をしていたの?」と聞きました。

昼は、「ビフテキ・アシェとか」――これは牛ひきだけで作られたビーフパティのこと。肉屋やスーパーで成形された状態で売られているので、あとは焼くだけです。

「ジャンボン・キュイとか」――ハムのことです。日本のハムの3倍くらいの大きさのものがスライスされて売っています。調理不要の便利食材です。

「シポラタとか」――粗挽きの生腸詰めで、こんがりグリルすればOK。

「キッシュとか」――これはパン屋で買ってきたものだそう。

付け合わせは、エクラゼ・ド・ポムドテール(ゆでたジャガイモをフォークの裏で潰しバターで和える)やパスタ。メインのあとは、フロマージュとパン、そしてデザートには果物というメニューだったそうです。

そして夜は、というと、「スープとか、ウッフ・ア・ラ・コックとか」――後者は、簡単に言えば半熟ゆで卵です。卵をエッグスタンドに乗せ、頭の部分をコンコンコンとスプーンで割って殻を取り、スティック状に切ったバター付きトーストをディップして頂きます。「それで足りたの?」と心配すると、「いや、足りないから、フロマージュとフルーツをたくさん食べた」とのこと。

「考えてみると、凝った料理はなかったけれど、お祖母様方や、従兄弟たちと楽しく喋りながら食事したから、美味しかったし、楽しかった」と、息子たちは満足顔です。ちなみに2週間ぶりに会う彼らは、特に痩せた様子もなく、いたって健康そうでした。質素だったかもしれませんが、ある意味、とても恵まれた食事を取らせてもらっていたのではないか、と思います。

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