ふかわりょうが「タモリ」を心底尊敬する理由 力は抜くけど、いい加減ではないという塩梅
その後、どのようにして帰られたのかは覚えていません。気づいたことがありました。タモリさんは、どこに行くのも変わらない。本番に臨むことも、おそば屋さんに行くことも、コンビニに行くことも、どこに行くにも、力が入っていない。さぁ、やるぞ! みたいなスイッチがなく、脱力というか、まるで浮力だけで動いているようにも見えました。
「やる気のある奴は去ってくれ」
ラジオ番組が始まるときに、スタッフを集めて発した言葉。「やる気のない奴」ではありません。「やる気のある奴」です。力の入ったものは全体に悪影響を及ぼすということでしょうか。「みんなで頑張りましょう、よろしくお願いします」ではないのです。
ただ、そんなタモリさんの力の入っている場面に遭遇したことがあります。
「びっくりしてくれるかな」
タモリさんが経営する飲食店に、事前に伝えず訪れる計画を立てていました。ちょっとしたサプライズにでもなればと、気持ちを高揚させながらハンドルを握る高速道路。
「ここだ」
東京から2時間ほど。ヨットがお好きだからか、港に隣接したおしゃれなお店。外観からはタモリさんのお店だとわかりません。
ホールで誰よりも機敏に動き回っていた
「いなかったら、いないでいいし」
駐車場に車を停めると、私は胸を弾ませながら、お店の戸に手を掛けました。
「いらっしゃいませ〜!!」
ガラガラと戸が開くなり、威勢のいい声が飛んできます。アルバイトのスタッフさんだと思いましたが、その声の主こそ、ジョッキにビールを注ぐタモリさん。エプロンを着けて、どのスタッフよりも声を出していました。
「なんだよ、来るなら言ってくれよ」
席に案内されると、次々に料理を運んでくるタモリさん。いらっしゃるとしてもお店の裏を想像していましたが、裏どころか、厨房どころか、ホールを誰よりも機敏に動き回っています。黙々と働く姿は、生放送の「タモさん」とはまったく違うようでした。平日働いて、週末はお店で働いて。
しかも、タモリさんは1人で来ている可能性もあります。あくまで私の予想ですが、運転手付きの車ではなく、東横線などを乗り継いでやって来る。電車好きのあの方なら、十分ありうる話。一般の人になりすますので、誰にも気づかれず、どこにでも行けるのです。
そうしてお付き合いしているうちに、タモリさんがいかに偉大な存在であるか気づくようになりました。あの「ビッグ3」のゴルフのやりとりも、ほかの2人に同調せず、淡々とわが道をゆくスタイルがむしろ面白いのだと、私の中で考えが変わってきました。
『笑っていいとも!』では、出演者の中で誰よりも早くスタジオに入るのがタモリさんでした。およそ8000回もの放送で、一度たりとも遅刻をしたことがありません。
『タモリ倶楽部』でも、興味深いことがあります。本番の準備が整うと、車から降りてこられるのですが、現場に入る際に手渡された台本に必ず目を通します。しかし、実際には台本どおりに進まないというか、成り行き次第なので、台本には大まかな流れしか書かれていません。
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