47歳のシンパパが元妻への怒りを解消できた訳 離婚後7年間、考え続けた「娘の母親」の重要性

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先日、一浩さんは、養育費を求めて調停を起こした。支払わないという母親の意見どおりにした養育費だが、それは親が決めることではなく子の権利であり、要求する必要があると思い直したためだ。もし、このまま一生会わずにいたとしても、養育費の支払いは別れて暮らす母親が子を思いやる気持ちを忘れていない証しであり、それは娘の心の支えになるだろう。

調停の場で、彼女は「養育費は払う」と認めた。それだけでも一浩さんの心は慰められたが、何よりよかったのは長年の疑念が晴れたことだった。

「彼女は養育費を払うけれども、裁判所が提示した額より少し下げてくれと申し出てきました。その理由として、実は自分には精神障害がある、と告白してきたんです。『いまは仕事に就けているけれども、それは契約期間があり、その先の見通しがたっていない。

職場や社会でコミュニケーションがうまくいかず、悩んで医療機関に相談したら精神障害があることがわかった。契約期間後の仕事に就けない可能性もある』とのことでした。障害者手帳も持っており、それを提示してきました」

一浩さんは、深く納得した。

「福祉の仕事に就いてから、さまざまな家族問題に向き合ううちに、障害ゆえの生きづらさを抱える人を理解しました。だから、彼女もそうだったのではないか、といつしか考えるようになったのです。

障害者である情報を開示してきたことは思いがけないことではありましたが、そのことから彼女の課題を納得でき、彼女への怒りがすうーっと溶けていきました」

相手を理解することで溶けていく「怒り」

この7年間は、彼女にとっても、決して平穏ではなかったのだろう。「なぜ普通に生きられない?」「誰もがしている子育てが、なぜこんなに苦しいの?」と、自分自身の生きづらさに悩み、ようやく受診に行き着いたのだろうと、一浩さんは推測する。

「いま思い返せば、こだわりが強い人でした。人と長い時間一緒にいることが非常にストレスになるようでもありました。夫でも、たとえ子どもであっても、誰かと暮らすのは彼女には難しいことだったのかもしれませんね」

それでも彼女は、娘にとって唯一無二の母親だ。その存在を消すつもりはない。いま彼女に望むことは、「姿だけでも見せてあげてほしい」ということだ。

一浩さんは、彼女と別れてからも毎年、3人で一瞬暮らした地方の子どもまつりに娘を連れて出かけている。生まれたての娘を抱いて、唯一、家族3人で見た思い出がある。

「例えば年に1度だけ会える、家族3人で集まってそれぞれの存在や成長を確認し合う、そんな家族があってもいいのではないかと考えています」

上條 まゆみ ライター

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かみじょう まゆみ / Mayumi Kamijo

1966年、東京都生まれ。大学卒業後、会社員を経て独立。教育・保育・育児・女性のライフスタイルなど、幅広いテーマでインタビューやルポを手がける。近年は、結婚や離婚、再婚、ステップファミリーなど「家族」の問題を追求している。離婚後も子どもを両親がともに育てる「共同養育」にも関心が高い。

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