
村上靖彦(むらかみ・やすひこ)/大阪大学人間科学研究科 教授。1970年生まれ。2021年から感染症総合教育研究拠点CiDER兼任教員。専門は現象学。著書に『母親の孤独から回復する 虐待のグループワーク実践に学ぶ』『子どもたちがつくる町 大阪・西成の子育て支援』『ケアとは何か 看護・福祉で大事なこと』など。(撮影:ヒラオカスタジオ)
「ヤングケアラー」を知っているだろうか。本来大人が担うはずの介護や幼いきょうだいの世話などに追われる18歳未満の子どもを指す。2020年の国の調査によれば、中学2年生の6%弱が該当するという。ただ本書は介護などの有無以前に、家族を心配(ケア)する子どもに目を向けるべきだと指摘する。そこから見えてくる問題の本質とは。
──大阪市西成区での調査をきっかけに、ヤングケアラーに着目されたそうですね。
貧困世帯が多い西成区で子ども支援の調査を8年間続けてきました。西成には困難を抱えた家庭が多く、一人親で子どもが6〜7人いるとか、ステップファミリーも珍しくない。子どもを虐待した母親や、育児支援をする人々の調査をしていく中で、子ども自身の声も聞かなくてはいけないと感じるようになりました。
最初に注目したのは、肉体的な虐待や(育児放棄などの)ネグレクト状態にある子ども。ただ西成で育児支援を行うNPO「こどもの里」の理事長である荘保共子さんらの話を聞くことで、見方が変わりました。実はネグレクトを受けている子どもは、ヤングケアラーでもあったんです。
根底にあるのは「心配」
──登場する7人の元ヤングケアラーの回想を読むと、「子どもなのに介護や家事をやる」点は困難の本質ではないと気がつきます。
これは僕にとっても発見でした。例えば本書に登場するAさんの場合。小学生のとき、母親の覚醒剤使用をきっかけに両親が離婚してしまい、薬に依存する母親の元でAさんが弟や妹の世話をしていた。ただ大人になったAさんが強調するのは、当時の家事の大変さよりも「お母さんが心配で心配で仕方がない」ということ。これはほかの元ヤングケアラーにも共通する特徴です。
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