格差拡大と日本の長期停滞はどこから来たのか 『成長の臨界』を書いた河野龍太郎氏に聞く

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河野龍太郎(こうの・りゅうたろう)/1964年愛媛県生まれ。1987年横浜国立大学経済学部卒業、住友銀行(現・三井住友銀行)入行。1989年大和投資顧問(現・三井住友DSアセットマネジメント)、1997年第一生命経済研究所を経て2000年BNPパリバ証券に移籍。現在、経済調査本部長、チーフエコノミスト。財務省財政制度審議会、東日本大震災復興構想会議検討部会など多くの審議会で委員を務める。日経ヴェリタス紙のエコノミスト人気調査で2022年までに9回首位に選ばれる(撮影:尾形文繁)
BNPパリバ証券のチーフエコノミストで、専門の金融・財政政策にとどまらず歴史と広い分野の知見に基づく分析で機関投資家に人気の高い河野龍太郎氏が、このほど『成長の臨界 「飽和資本主義」はどこへ向かうのか』を上梓した。「日本の失われたX年」、20年を超えるとされる長期停滞の原因は何か、先進国における世界的な格差拡大の背景と、とりわけ日本における問題点はどこにあったのか、話を聞いた。

――イノベーションやグローバリゼーションと格差拡大との関係、日本の長期停滞、膨れ上がる公的債務、米中の覇権争いとドル基軸通貨体制の行方など、今の経済問題を網羅し、かつ歴史的な視点で分析した力作です。

また、分析に経済学を超えた幅広い分野の知見を動員しているのも印象的です。

歴史学、政治学、社会学、認知心理学、文化人類学などの分野からの貢献を援用しています。冒頭でも文末でも触れましたが、ジャン・ティロールが『良き社会のための経済学』で指摘しているように、人間を扱うこれらの学問は19世紀末までは1つにまとまっており、再びまとまるべきだと思うのです。

『成長の臨界 「飽和資本主義」はどこへ向かうのか』(河野龍太郎著/慶應義塾大学出版会/2750円/548㌻)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。

私が日ごろ、主戦場にしている財政金融政策については、特にニューケインジアンエコノミクスで語られており、先進国の中央銀行もこれを前提にしています。しかし、日本にはそれは当てはまらないんじゃないか、それだけでは私たちが抱える問題を解決できないのではないかという居心地の悪さを15年ほど前から感じてきました。

30年ほど前から著者を招いて経済学の読書会を開いていたのですが、15年ほど前に、経済学以外の分野にも対象を広げ、他分野の専門の方と議論する中で、問題解決にはそうした「知のイノベーション」も必要ではないかと考えるようになりました。

イノベーションのダークサイドが露わに

――今、世界で広がっている資本主義への疑問、格差拡大の問題ですが、その原因をICT(情報通信)革命による機械化に求める議論と、グローバリゼーションに求める議論とがあります。河野さんは、基本はイノベーションだとしていますね。

グローバリゼーションも広義のイノベーションの1つだと思っています。経済構造の上に政治構造があるわけですが、経済構造は技術に依存している。1990年代後半以降、ICT革命による第2次機械時代が始まって、それが第2次グローバリゼーションにつながり、政治構造も変えてきました。

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