老母が万引きしたら疑うべき「ある病気」の正体 万引きを「モラルの欠如」だけで断罪できない訳
認知症の代表的な周辺症状としては、「物盗られ妄想」もよく知られています。物盗られ妄想というのは、自分がどこかに置き忘れたものを、誰かに盗まれたと思い込んでしまう症状です。財布や貯金通帳などのお金に関するものを盗まれたと訴える場合がほとんどで、「〇〇さんに盗られた」と、特定の人を名指しで訴える場合が多いのも特徴です。
身近で一番お世話をしているお嫁さんなどがターゲットになりやすく、親族が揉める原因にもなります。私の診療経験から言うと、物盗られ妄想の見られる認知症の患者さんの約9割は女性です。男性で物盗られ妄想に駆られる人はめったにいません。
なぜ男女で違いが見られるのか不明ですが、おそらく古代からの習慣として、女性は男性が狩猟などで獲得してきたものを守る役目を担ってきたことから、自分の保管したはずのものがなくなると、男性より敏感に反応して「盗られた」と考えてしまうのではないかと、私は考えています。見張る意識が強いといったほうが近いかもしれません。
周辺症状の中には、ほかにも男女差の見られるものがいろいろあります。買い物へ行って同じ物ばかり買ってくるというのも、主に女性の認知症の方に見られる周辺症状です。男性はもともと必要なもの以外は買い物をする習慣がないせいか、認知症になってもそうした行動はあまり見られません。
盗むのは「モラルの欠如」からではない
さらに、女性の場合は、物盗られ妄想とは逆の、物を盗る行動が見られることもあります。物を盗るといっても、ピック病(前頭葉と側頭葉が萎縮する認知症の一種)による衝動的なものとは違い、「あそこの家の庭に咲いていた梅がきれいだったから持って帰ってきた」というケースです。道路から手を伸ばして他人の敷地内の花をプチッと勝手に摘んできたりします。
おそらく、本人は盗むというモラルの欠如はなく、野に咲くすみれを摘む感覚で持ち帰ってくるのでしょう。男性で花を摘んできた人の話は聞いたことがないので、やはりきれいな花を摘むというのは女性ならではの思考と考えられます。
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