老母が万引きしたら疑うべき「ある病気」の正体 万引きを「モラルの欠如」だけで断罪できない訳

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認知症による記憶障害は、認知症グレーゾーンや加齢に伴うもの忘れと違い、忘れるはずのないエピソードが記憶からゴソッと抜け落ち、人から教えてもらっても思い出せないところが大きな特徴です。とくに1年以内に経験した人生の大きなイベントを思い出せなくなったら、すでに認知症の領域に進んでいると考えられます。

認知症の場合は、奥さんから「半年前の次男の結婚式は、台風が来て本当に大変だったわね」と言われても、「結婚式って、誰の?」という具合に、息子の結婚式というエピソード自体を忘れてしまうのが特徴です。あるいは、夕食で麻婆豆腐を作ろうと思って、豆腐とネギと豚のひき肉を買いにスーパーへ行ったとします。

豆腐と豚のひき肉はすぐに買い物かごへ入れたのに、残り1つの食材をどうしても思い出せない。仕方なく2つの食材だけ買って帰宅し、冷蔵庫を開けたら「ああ、そうだ、もう一つはネギだった」と思い出せたら、単なるど忘れです。

これに対して、麻婆豆腐の材料を3つ買いに行ったはずなのに、そのこと自体をまったく忘れて別の食材を買って帰宅し、ほかの料理を作っていたら、認知症の疑いが濃厚です。とくに家族から「今日は麻婆豆腐じゃなかったの?」と聞かれても、本人がまったく覚えがない場合は、認知症が始まっていると考えていいでしょう。

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そのほかにも、テレビのリモコンを置いた場所をいつも忘れてあちこち探し回るという場合は、認知症グレーゾーンの可能性がありますが、リモコンの使い方自体が急にわからなくなると、認知症の疑いが濃くなります。

たとえば、エアコンに向けてテレビのリモコンのスイッチを入れて「エアコンが壊れている」と言いだしたり、逆にテレビに向けてエアコンのリモコンのスイッチを入れて「テレビがつかない」と言って大騒ぎをする場合がよくあります。

さらに、今日が何月何日で何曜日なのかわからない、大事な仕事の予定を入れていたこと自体すっかり忘れてしまうとなれば、もはや単なるど忘れではありません。すぐに認知症の専門医を受診することをおすすめします。

自立できなくなったら「認知症」

認知症と認知症グレーゾーンの違いは、専門の医療機関を受診すれば、画像検査やペーパーテストなどで判定できます。一般的な指標としては、日常生活が自立しているかどうかが最大の目安となります。記憶力など認知機能の低下で苦労しつつも、自立して日常生活を送ることができていれば、まだ認知症グレーゾーンに踏みとどまっている段階です。

たとえば自分で料理をあまり作らなくなったとしても、買い物に出かけてお惣菜やお弁当を買ってきたり、「めんどうくさい」と思いながらも掃除や洗濯を必要最小限に行っていたりする場合は、まだ回復の見込める段階です。とくに一人暮らしでも、なんとか自立した生活ができていれば、認知症グレーゾーンの段階と言っていいでしょう。

これに対して、買い物に出かけても同じものばかり買ってきたり、料理をすると鍋をこがしてしまうなど、一人で自立した生活ができなくなった状態が認知症と言えます。

朝田 隆 メモリークリニックお茶の水理事長・院長

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あさだ たかし / Takashi Asada

認知症の早期発見・早期治療に特化した「メモリークリニックお茶の水」理事長・院長。東京医科歯科大学特任教授。筑波大学名誉教授。医学博士。1955年島根県生まれ。1982年東京医科歯科大学医学部卒業。40年以上にわたり、2万人を超える認知症、および、その予備群である軽度認知障害(MCI=グレーゾーン)の治療に従事。認知症予防&治療の第一人者として診察にあたる傍ら、テレビや新聞、雑誌などで認知症の理解や予防への啓発活動を続けている。

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