日本の中年男性「貧乏転落」が続出しかねない訳 新自由主義、自己責任国家が格差と分断を作る
藤井:今回のコロナ禍でリモートワークが増えました。ビジネス系の人たちによると、これまで会社にただいただけのおじさんたちが明らかにあぶりだされた。Zoomさえ使えない人が多いし、リモート環境もない。大臣クラスでもそういう人、いっぱいいますね。
中村:中年男性はサービス業でもいらないし、偉そうにしながら会社にしがみつかれても迷惑なだけという。
藤井:日本の産業構造は1990年代以降、製造業からポスト製造業、情報・サービスを含め、フレキシビリティとクリエイティビティが求められる産業に移行し始めた一方で、企業は相変わらず工業化社会で通用した組織のままだった。
規律と画一性、量で勝負という組織形態ですよね。そこでは、個々の労働者の個性や能力というよりは、組織、あるいはそのなかの部分の果たす役割のほうが重要なんですね。仕事はかっちりと組織化されていて、その仕事に人を当てはめていく感じですよね。「使えない」人が出てきたら、組織自体がカバーするという形でやってきたのです。
学問的に言えば、フーコーが『監獄の誕生』で描き出した、規律の装置としての組織なんかが有名ですね。それらは、工業化社会における組織モデルの分析だったということが、ポスト工業化した私たちの時代から見るとよくわかります。
中村:そうした企業組織こそが福祉的で、まさに雇用がセーフティネットだったわけですね。
個々人の成果は時間で測れるものではない
藤井:1990年代以降に必要になった個々人のクリエイティビティやフレキシビリティは、時間で測れるものではないですよね。3時間でクリエイティブな仕事ができる人もいて、8時間も10時間も会社にいる必要はない、そういう時代になっていることに、ここに来て、ようやく多くの人が気づきはじめた。あるいは、従来の企業の働き方に慣れていた人がどんどん定年を迎えて去っていくなかで変わってきたということもある。
ともかく大切なことは、働き方の変化の根底に産業構造の変容、そしてテクノロジーの驚異的な進歩があるということです。人びとの意識の変化とこうした構造やテクノロジーの変化との間には圧倒的ラグがあります。
ところで、クリエイティビティやフレキシビリティが求められる流れはさらに加速していくと思いますが、その理由の1つは、テクノロジーの進化、具体的にはAIの導入があるからです。AIの導入によって、労働の合理化が進みますから、そこからあぶれる人がでる。