日本の中年男性「貧乏転落」が続出しかねない訳 新自由主義、自己責任国家が格差と分断を作る

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

藤井 達夫(ふじい・たつお)/1973年生まれ。早稲田大学院政治学研究科政治学専攻博士後期課程退学(単位取得)。現在、早稲田大学大学院、立教大学ほかで非常勤講師として教鞭をとる。専門は、西洋政治思想および現代政治理論。近年は、行き詰まりつつある代表制民主主義の先を見据えた民主主義の新たな構想について研究を進めている。著書に『平成の正体』(イースト新書)、『公共性の政治理論』(共著、ナカニシヤ出版)、翻訳に『熟議民主主義ハンドブック』(共訳、現代人文社)などがある

藤井:前に触れましたが、日本の場合、企業が社会の最大のセーフティネットとなり、多くの「使えない」男性たちを守ってきた。「使えない」男性と結婚した女性も、社員の妻という形で守られてきた。ところが1990年代から次第に、企業がそうしたセーフティネット的役割を放棄するようになるわけです。そして令和の時代は、日本を代表する大企業までもが、明確に日本型雇用を放棄することになるでしょう。

中村:トヨタ自動車が定期昇給の廃止を検討と報道されましたね。中年のリストラが大幅に行われるということですね。バブル崩壊後の1990年代前半、リーマンショック、そして働き方改革で行われたことがさらに続く。そしてコロナで経済活動がストップしたことがキッカケとなって、セーフティネットを完全に手放しそうな雰囲気がある。

藤井:リストラという言葉を日本人が初めて耳にしたのは、バブル崩壊後の1990年代前半でしょう。リストラというと、首切りのことだと思われていますが、リストラクションとはそもそも構造変革、企業の構造を変えるということ。企業経営においてもっとも負担になっている人件費を削るため、人員を減らし非正規雇用者を増やした。それと並行して、離婚が増えたことで企業とのつながりを完全に失った女性が貧困化した。これが平成時代に起きたことですね。そして働き方改革、ホワイトカラーエグゼンプション制度がでてきた。

中村:僕はネオリベ・インフルエンサーといわれるホリエモンや箕輪厚介氏が言っていることって、意外と正しいと思うの。企業に守られていたわれわれ世代は、若者が長時間働かないとか、上司よりも先に帰るとか、そういう論理で若者が「使えない」と言いがちだった。

でも、よく考えてみると、中年世代より早く自立を求められた若者が言っているのは「もっと無駄を省いて生産性を高めよう」ってことだし、企業に守られていることを前提に語る中年男性の意見や主張のほうがズレている。

若い世代のほうがネオリベの論理と心理に自覚的

藤井:そこは確かに一理あって、若い世代のほうが圧倒的にネオリベの論理と心理に自覚的だし、よく理解している。ネオリベに批判的かそうでないかを問わず、そう思います。

中村:中年世代は余計なことばかりやって生産性は低いし、年功序列を当たり前と思って、団塊の世代のやり方を踏襲してやたら偉そうにしている。でも、定年45歳制を採用する企業が増えて、再就職するときに、非正規で雇用されるようになったらどうなるか。

ポスト工業化の時代にはその中年男性と中年女性を比べたら、どこも中年女性を採りますよ。ネオリベ的に中年男性は本当にいらなくなる。社会保障も縮小していくだろうし、実際に政府はそうしたいだろうし、団塊ジュニア以上、団塊の世代以下の中年男性が死ぬんじゃないかというのは、そういう理由です。

次ページコロナ禍で使えないおじさんがあぶり出された
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事