日本の中年男性「貧乏転落」が続出しかねない訳 新自由主義、自己責任国家が格差と分断を作る

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18世紀の終わりから始まった産業革命は肉体労働に代わる機械の導入によって起きました。そこで自分たちの仕事を奪った機械をぶっ壊す「ラッダイト運動」などが起きました。これに対して、21世紀のAI革命は、いわゆるホワイトカラーが機械に置きかえられていくことによって起きるわけです。

18世紀から19世紀にかけて産業革命は、あぶれた労働者のための新たな労働を作り出しましたが、これから起こる産業革命では、あぶれたホワイトカラーを就かせる新たな労働分野は生まれそうにない。ここがかなり心配なんですね。

中村:税理士などの士業を筆頭に、もう人間がやらなくていいといわれている仕事は無数にありますね。

40代以上の従来型ビジネスマンがあぶれる

藤井:今まさに起きつつある21世紀の産業革命と、高度なクリエイティビティ、フレキシビリティが求められるポスト工業化社会の労働、その2つが重なって、人が余ってくる。まずあぶれるのは確実に、そういう発想についてこられない40代以上の従来型ビジネスマンたちでしょう。

中村:僕がその現実に気づいたのはホリエモンや箕輪厚介が訴えだして、しばらく経ってからでせいぜい2年前。慌てて人間関係を意識して、同年代と接触する機会を減らして、若い人たちとの時間を増やした。30代前半の世代がわれわれの世代と明らかに違うのは、信頼を得たければ、まず自分の全部を出すということ。それと噓をつく人が減った。胡散臭い人は明らかに減っている。

『日本が壊れる前に——「貧困」の現場から見えるネオリベの構造』(亜紀書房)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

藤井:まあ、ネオリベ化の時代は情報公開と説明責任が重視されますしね。どう社会的な信頼を醸成するかというのは重要な問題で、工業化社会の時代のように、有名企業に属していれば、それで全幅の信頼が得られるという時代ではもはやないでしょうし。

中村:彼らは、例えばYouTubeで動画を公開するとき、自分のノウハウをまず全部無料で出す。僕らの世代は最初の5分だけ無料で見せて、残りを見たい人には高額を課す、という発想になりますが、今のインフルエンサーはそんなことはしていません。いったん全部出して信頼を得て、そこからマネタイズしている。考えていることが根本から違う。情報通なはずの出版の40代後半の人たちにこの話をしても通じないので、おそらくビジネスマンのなかでも深刻な分断があると思う。

中村 淳彦 ノンフィクションライター

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なかむら あつひこ / Atsuhiko Nakamura

貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買など、さまざまな過酷な話に、ひたすら耳を傾け続けている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『私、毒親に育てられました』(宝島社)、『同人AV女優』(祥伝社)、『パパ活女子』(幻冬舎)など多数。Xアカウント「@atu_nakamura」

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藤井 達夫 政治学者

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ふじい たつお / Tatsuo Fujii

1973年生まれ。早稲田大学院政治学研究科政治学専攻博士後期課程退学(単位取得)。現在、早稲田大学大学院、立教大学ほかで非常勤講師として教鞭をとる。専門は、西洋政治思想および現代政治理論。近年は、行き詰まりつつある代表制民主主義の先を見据えた民主主義の新たな構想について研究を進めている。著書に『平成の正体』(イースト新書)、『公共性の政治理論』(共著、ナカニシヤ出版)、翻訳に『熟議民主主義ハンドブック』(共訳、現代人文社)などがある。

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