野村証券が規制緩和に違和感を抱く決定的理由 「ファイアーウォール規制」の緩和は是か非か

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――例えばM&Aをするときに証券と銀行で同時に話ができると顧客の利便性が高まるという意見があります。

その場合はM&Aから話が始まりますよね。「この会社を買収しましょう、こういう戦略があって、企業価値が上がりますよ」とか、「こういう手順でファイナンスしましょう。最初借入をして、ブリッジローンして、借り換えて……」ということを当然話すわけです。

ただ、どこの銀行からいくらの金利で何年借りてというのを、その時点で決める必要はない。例えばうちの場合は、NCI(野村キャピタル・インベストメント)というブリッジローンを出す子会社がある。詳細を詰めるときは、NCIを話に入れるために企業から同意書をもらう。確かにひと手間だが、それがM&Aの執行に大きな障害になるかというと、ならない。

規制の形にこだわるつもりはない

――では、利益相反や優越的地位の濫用を防ぐために、どのような対策が必要だと考えていますか。

監督制度がきちんとしているイギリスでも、優越的地位の濫用が起きている。新型コロナウイルスで融資が増えた一方で、資本調達、増資する際には「ちゃんとうちを(取引に)入れてね」という圧力が、1件じゃなくて複数起こっている。やはり構造的に起こるんですよ。

こうした事態が起きたときに、イギリスではいち早く当局が察知して、今年の4月にはすでに「ダメですよ」と言っていた。こういったモニタリングができればさすがに抑止力にはなりますし、なんでもやり放題にはならない。

そもそも、ファイアーウォール規制が必ずしもベストだとは思っていない。最初は業際問題を緩和する意味合いも強かったが、今は優越的地位の濫用、利益相反を抑止するという目的で残っているだけだ。

ファイアーウォール規制という形が大事なのではなく、優越的地位の濫用と利益相反をどう抑止するか、もしくは抑止できなかった場合に、どういう罰則規定を課すかということが本質的に大事な話だ。規制の形にこだわる必要はない。

梅垣 勇人 東洋経済 記者

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うめがき はやと / Hayato Umegaki

証券業界を担当後、2023年4月から電機業界担当に。兵庫県生まれ。中学・高校時代をタイと中国で過ごし、2014年に帰国。京都大学経済学部卒業。学生時代には写真部の傍ら学園祭実行委員として暗躍した。休日は書店や家電量販店で新商品をチェックしている。

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