野村証券が規制緩和に違和感を抱く決定的理由 「ファイアーウォール規制」の緩和は是か非か
――規制緩和が進めば収益にマイナス影響があるのでは。
たしかにビジネス的にはプラスではないかもしれない。ただこの規制緩和があったからといって屋台骨が揺らぐことはない。
――仮に、ファイアーウォール規制がなくなると、どのような問題が起きるのでしょうか。まず、個人の顧客情報を共有した場合はどうですか。
自分の金融資産の情報は家族にすら開示しないことが多い。それを全部自由に、何の承諾もなく(銀行と証券の両方を持つ金融)グループの中で共有しますよということを、本当にお客様が望んでいるのだろうか。自分の情報は自分で管理したいというのが、世の中の趨勢ではないか。
例えば、銀行とは付き合いがあったとしても、会ったこともない銀行グループ会社の証券マンが、自分の金融資産の情報を持って、いきなり営業に来たらどうか。そういうことはやめてもらいたいという声も、個人については特に強いと感じている。
規制緩和で利益相反が起きかねない
――企業についてはどうですか。
ファイアーウォール規制が抑制しようとしていることは2つある。優越的地位の濫用と利益相反だ。まず利益相反については、社債とローン(融資)が混ざることで利益相反が潜在的に起こりうる状態になる。情報の非対称性があるからだ。
通常、融資のコベナンツ(財務制限条項)、担保の有無、担保提供制限など、どういった条件の債務があるのかといった情報は、市場では公開されていない。
だが、銀行は顧客企業のこういった信用情報を持っている。マーケットに知られていない情報を持ちながら、開示情報だけに基づいて投資やリスクの判断をすることが前提の市場で(社債の)引き受けを行うと、潜在的に利益相反が起こりうる。例えばクレジットが悪くなった(企業の信用リスクが悪化する)ような場面で、利益相反が起きかねない。
――銀行が自分たちがお金を貸している企業の業績が悪化した際に、その企業に社債を発行させて、それで得た資金で借金を返させたのではないかと疑われる事例が過去にありました。
現在のファイアーウォール規制は、そうした利益相反を未然に防ぐ目的もあるので、何の議論もないままに(規制を)単純になくすだけではいけない。今言われたような事例が過去にはあったわけで、(規制をなくすと)構造的にはさらに起こりやすくなってしまう。
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