住まいの「脱炭素化」なかなか進まない根本原因 政府は温室効果ガスの排出量、実質ゼロを提言

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分譲戸建てではさらに普及が進んでいない。その新設着工は約11万戸だが、そのうちZEHは約1900戸でシェアは2%に満たない。これは分譲住宅が注文戸建てに比べ制約が多いことによる。

具体的には、土地と建物のセット販売であり、そのため顧客の優先事項が価格や立地性(土地)になる傾向が強いためである。省エネ性などの建物性能に関しては、どうしても二の次になりやすいのだ。

とは言え、分譲を含め戸建てはまだZEHの普及が進んでいるほうだとも言える。集合住宅(分譲マンションや賃貸住宅)は供給実績が非常に少なく、ほぼ手つかずの状況である。それには戸建てとは異なる事情がある。

ZEH達成の要件として太陽光発電などの創エネが重要だが、集合住宅の場合、システムの設置容量が限られ、1戸当たりの創エネ量が少なくなるからだ。さらに、特に賃貸住宅の場合、ZEH化への投資がオーナーの収益を圧迫する可能性があるためでもある。

上記のように、ZEHの普及はまだ始まったばかりの状況にあり、国ではそれに比較的近い省エネ性能を持つ仕様として、「Nearly ZEH」「ZEH Oriented」といった新たな枠を設け、普及を後押ししている。

また、あくまでも注文住宅においてだが、年間供給のうちZEHが80%を占めるハウスメーカーも出てきており、国が進めるZEH普及の努力は一定の成果を上げつつあることも指摘しておく。

既存住宅の省エネ改修が効果的だが…

一方で、既存住宅約5000万戸のうち多数を占める既存(ストック)住宅の省エネ性の向上の取り組みは、ZEH補助金なども用意されているが進捗があまり見られていない。前述の資料によると、2019年度のZEH改修は214戸にとどまっている。

給湯のほか発電も可能な家庭用燃料電池「エネファーム」の普及も進み始めている(筆者撮影)

省エネリフォーム(リノベーション)の実績は見えづらいが、参考になりそうなデータとして、一社・住宅リフォーム推進協議会が2019年2月に発表した「住宅リフォーム潜在需要者の意識と行動に関する調査(第11回)」の内容を紹介しておく。

同調査によると、リフォームの動機(戸建て・マンションの合計)について「設備の劣化・グレードアップ」(34.0%)、「高齢者が暮らしやすい住宅」(17.2%)、 「今の家に長く住み続けたい」(15.1% )などが上位となっていた。

ただし「省エネルギー性能を高めたい」は2.7%にとどまっており、これは居住者が住まいについて利便性や安全性などと比べ、省エネ性の必要性を強く認知していないことを表していると思われる。

既存住宅は数が多いだけに省エネ性が高まれば脱炭素化への貢献が大きい。補助金やローン金利優遇などによる支援ももちろんだが、省エネリフォームに対する国民の意識改革が今後、より強く求められそうだ。

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