シャケ、チクワは邪道!究極の「のり弁」作り方 朝7時に仕込んで、5時間まってから食べるべし

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まず弁当箱。当時の弁当箱はアルマイトだったから、史実にのっとってそれでいこうと思った。そう思って弁当箱を買いに行ったのだが、いまはほとんどプラスチックなんですね、タッパーウェアみたいなのばっかり。
ようやく1つだけ見つけたのだが、これもフタはプラスチックだった。

このように超本格的を目ざすと、難関が次々に立ちはだかる。正午に食べる、5時間後に食べる、これを守るには朝の7時に弁当を作らなければ ならない。

海苔弁のために、わざわざ朝7時に起きなければならないことになった。朝7時に起きて海苔とゴハンと醤油を用意する。ゴハンは「レンジで2分」のパックめしでいくことにする。パックめしをチンして弁当箱に詰める。
この弁当箱はかなり大きくて、パックめしが 2個半入った。

どうってないことが意外に楽しい

熱いゴハンを弁当箱に詰め、シャモジで四隅にならすのだが、こんなどうってことないことが意外に楽しい。二段式にするつもりなので、弁当箱半分ほどになったところで、弁当箱よりひとまわり大き く切った海苔をかぶせる。海苔は時間の経過とともに縮むから、それを防ぐために海苔の四辺を箸で中へ押し込んでいく。こんなどうってことないことが、これまた楽しいんですね。

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ここで醤油をかけまわす。醤油は海苔の上で2、3カ所にたまってしまうので、シャモジで全域に散らすようにならす。このどうってことないはやはりどうってことなくてそれほど楽しくないんですね。
もう一段ゴハンをのせ、海苔をかぶせ、醤油をかけまわしてフタをする。

史実にのっとり新聞紙で包む。それを仕事場の机の脇に置く。中高生のときはこれをカバンに入れて電車に乗るわけだから、このまま机の脇に置いておくわけにはいかない。仕事をしながらときどき弁当箱をゆする。お昼が待ち遠しくてならない。

正午。きっかりに弁当箱を引き寄せる。いよいよフタを開けるのだ。ふつう、弁当のフタを開けるときは、「さあ、どんな弁当かな」と思うものだが、なにしろ自分で作ったのだからそのすべてを知っている。でも弁当のフタを開けるのは楽しいものなのだ。

(イラスト:東海林さだお)

開ける。

作った通りの弁当がそこにあった。もし違っていたらコワイが、弁当箱の中は全域海苔、どこもかしこも海苔。むせかえるような海苔の匂い、醤油の匂い、醤油のしみたゴハンの匂い。

ウーム。醤油と湯気でグズグズになった海苔がゴハンに合う。稲荷ずしは作りたてより時間をおいたほうが旨いというが、そう、海苔とゴハンが〝ヅケ〟になっている。

一口食べ、二口食べ、さてこのへんで、と、史実にのっとって包んであった新聞をガサゴソ広げて読み始める。

東海林 さだお 漫画家、エッセイスト

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しょうじさだお / Sadao Shoji

1937年、東京都生まれ。漫画家、エッセイスト。早稲田文学露文科中退。1970年『タンマ君』『新漫画文学全集』で文藝春秋漫画賞、1995年『ブタの丸かじり』で講談社エッセイ賞、1997年菊池寛賞受賞。2000年紫綬褒章受章。2001年『アサッテ君』で日本漫画家協会賞大賞受賞。11年旭日小綬章受章。

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