殺人事件の2割が夫婦間で起きている背景事情

全体は減少傾向にあるが親族間は増えている

「親族殺人の中で、配偶者殺しが最も多い」。これだけを聞くと、行き過ぎた夫のDVの果てに、「妻が殺されている」と考える人が大多数でしょう。事実、配偶者殺人の被害者の絶対数は、妻のほうが多いことは確かです。

しかし、統計をさらに詳細に分析してみると、意外な事実が浮かび上がってきます。警察庁の「年間の犯罪」統計の2000年から2019年までの推移をみると、妻の被害者数が年々減少しているのに対し、夫被害者数は横ばいでほぼ変わりません。結果、夫の被害率が近年になって増加しています。

2000年の夫被害率は32%で、圧倒的に妻被害率が高かったのですが、2019年には、46%にまで夫被害率が増えています。さらに、遡って、1955年の統計では、夫被害率はわずか22%でした。この65年間で夫の被害率は倍増したということになります。

なぜ殺人事件は夫と妻の被害率が拮抗するのか

とはいえ、殺人ではなく夫婦間での暴行と傷害事件を同警察庁統計で見てみると、それぞれ夫被害者率は10%と8%にすぎません(2019年)。夫婦間での暴行傷害事件は圧倒的に夫側が9割加害者であるのに対して、なぜ、殺人事件だけは夫と妻の被害率が拮抗するのでしょうか?

こんな仮説が思いうかびます。毎日のように、身体的暴力を受け、警察に駆け込んでも「夫婦のことですから」と相手にされないだろうと妻は勝手に判断して我慢する。そのうち、夫の暴力が常態化のうえ、過激化し、「もうだめだ。このままでは私が殺されてしまう……」と、精神が極限状態に陥った揚げ句の夫の殺害。暴行・傷害に比較して、夫の殺害率が高いのはそういう裏事情が影響しているのかもしれません。

そして、まさに、そのとおりの事件も実際に発生しています。2020年4月、岩手県久慈市で会社員の夫を妻(46歳)が殺害するという事件がありました。

妻は夫から日常的に暴力を受けており、事件当日も暴力を振るわれたうえで「殺すぞ」と言われ、妻は、「このままだと殺される。殺すしかないと思った」と、夫の就寝中に首を絞めて殺したそうです。夫からの暴力に対抗するにはもう殺すしかないというところに追い込まれてしまうのです。

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