殺人事件の2割が夫婦間で起きている背景事情 全体は減少傾向にあるが親族間は増えている

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ただ、こういう見方もできます。暴行・傷害の統計に表れるのは、あくまで警察に届けを出したものだけにすぎません。実際は、可視化されない夫婦間の暴行や傷害はもっとあると考えられます。とくに、表面化しない理由としては、「届け出を出したりするほどのことではない」「自分さえ我慢すればいい」「世間体が悪い」などがあると思われます。

では、実際に、夫婦間ではどれくらい暴力行為が行われているのでしょうか?内閣府が2018年に実施した「男女間における暴力に関する調査」というものがあります。

対象は、現在有配偶者だけではなく、離別死別の過去既婚経験のある人たち20代から80代以上に対して、相手から身体的暴力を受けた経験があるかどうかを調査したものです。「1、2度あった」「何度もあった」合計にて男女別年代別に被害経験を表したのが以下のグラフとなります。比較のために「これまでの過去全体」と「ここ1年間」の被害率を並べています。

これによれば、「これまでの過去全体」で見ると、確かに、全年代合計では男性被害率14%に対し、女性は20%であり、とくに40代以上の女性はすべて、男性よりもその被害率が高くなっています。

20~30代は男性被害率が高い

しかし、20~30代では逆に男性のほうの被害率が高い点にも注目したいと思います。さらに、「この1年間」での被害状況を見ても、40代以上はほぼ男女同等ですが、20~30代に関してだけは、男性の被害率のほうが高くなっています。つまり、少なくとも20~30代の若年層においては、女性よりも男性のほうが配偶者からの身体的暴力を受けていたという事実がわかります。

それは、夫婦の離婚理由からも明らかです。「夫婦の絆」も破壊するコロナ禍の恐ろしい作用という記事の中でも紹介しましたが、司法統計によれば、家庭裁判所で扱った離婚裁判(調停含む)の夫妻それぞれの離婚申し立て理由を、2000年と2018年とで比較すると、妻側の離婚申し立て理由で増えているのは、「夫からの精神的虐待」で+2%ですが、「夫からの身体的暴力」は逆に▲10%と減少しています。

反対に、夫側の離婚申し立て理由で増えているのは、「妻からの精神的虐待」で+8%、「妻からの身体的暴力」が+3%。つまり、ここ18年間で、いわゆる妻のDV、しかも身体的な暴力を原因とする離婚が増えていることは紛れもない事実です。

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